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馬の文献:離断性骨軟骨炎(McCoy et al. 2015)

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「スタンダードブレッドのトロッターとペイサーでの飛節骨軟骨症の早期外科的介入における短期的及び長期的な競走能力」
McCoy AM, Ralston SL, McCue ME. Short- and long-term racing performance of Standardbred pacers and trotters after early surgical intervention for tarsal osteochondrosis. Equine Vet J. 2015 Jul;47(4):438-44.

この症例論文では、馬の骨軟骨症(OC)に対する外科的治療の有効性を評価するため、2007〜2010年にかけて、米国の二洲で競走使役されたスタンダードブレッド(トロッター又はペイサー)のうち、飛節のOC病変に対する関節鏡手術(骨軟骨片の摘出および軟骨病巣の掻爬術)が実施された133頭の罹患馬と、145頭の対照馬における、短期的および長期的な競走成績の比較と、オッズ比(OR)の算出による危険因子の解析が行なわれました。

結果としては、各群の二歳出走率を見てみると(二歳の時点で初出走を果たしていた馬の割合)、OC罹患馬(56.4%)と対照馬(66.2%)のあいだで有意差は認められませんでした。しかし、歩法ごとに見ると、トロッターでの二歳出走率は、OC罹患馬(47.9%)のほうが、対照馬(60.7%)よりも顕著に低いことが分かりました。一方で、ペイサーでの二歳出走率は、OC罹患馬(66.1%)と対照馬(69.7%)で同程度となっていました。このため、ペイサーに比べて、トロッターの場合には、飛節のOC病変を起こすことで、二歳で初出走できる確率が半分以下まで低くなる(OR=0.45)ことが示されました。

この研究では、OC病変が発生した部位の違いが、競走能力を左右することも示されており、二歳出走率は、頸骨の中間綾(60.2%)や内顆(54.2%)に比較して、外側滑車(45.9%)では明瞭に低いことが分かりました。その結果、外側滑車のOC病変では、他の部位に比べて、二歳で初出走できる確率が半分近くまで低下する(OR=0.56)ことが示されました。また、左右両方の飛節にOCを発症した場合にも、二歳出走率が低くなる(51.3%)というデータも示されました。

この研究では、全てのOC罹患馬に対する関節鏡手術が、11ヶ月齢以下という、かなり早期に実施されたのが特徴的です。つまり、そのような早期治療の結果、難治性の変性関節疾患が続発するのを予防できたと推測され、OC罹患馬における良好な競走能力に寄与したという仮説が成り立ちます。その一方で、早期に外科的治療を行なったことで、OC病変が自然治癒して、手術無しでも優れた競走能力を発揮したという馬も罹患群のほうに含まれてしまったと推測されます。その場合には、関節鏡の効能が過大評価されてしまった、という可能性も否定できないと考えられました。

この研究において、ペイサーよりもトロッターのほうが飛節OCの予後が悪かった理由について、この論文の考察では、明確には結論付けられていませんでした。ただ、この両品種では、遺伝性素因が異なるため、OC病変の重篤度(軟骨病変の広さや深さ)に差異が生じた可能性は否定できません。また、ペイサーのほうが、中間稜のOC病変(=他の部位より治癒が良いことが多い)の割合が高かったことも一要因かもしれません。更に、ペイサーの側対歩の歩法では、同側前後肢の追突が少なくリーチオーバーが容易なため(=トロッターよりも高速になり、競走タイムも短くなる)、後肢の蹄弧を低くできることから、飛節の屈曲の度合いを少なくできると推測できます。その結果として、外側滑車のOCなど、関節の滑走面に発症した病変が、競走能力に与える影響が少なくて済んだ、という仮説も成り立つと言えます。

この研究では、各馬の競走成績の指標として、勝利数や入賞数、獲得総賞金、レースごとの獲得賞金、各馬の最速タイムなどが解析されましたが、いずれの指標も、OC罹患馬と対照馬のあいだで有意差は認められませんでした(これは、歩法ごとに見ても同様)。この要因としては、競走成績の指標は、少数の実力馬が優秀な数値を出すため、どうしても、データが左側歪度する割合が高くなり、データ全体としての正規分布が得られないため、統計学的な有意性が示されにくいことが挙げられています。

この研究では、患馬の性別も競走能力に影響を与える可能性が示唆されており、騸馬に比較して、牡馬や牝馬では、二歳で初出走できる確率が半分程度まで下がる(それぞれOR=0.57及びOR=0.47)ことが分かりました。この理由としては、性ホルモン分泌の少ない騸馬では、骨格成熟が緩やかで、OC病態も軽度に留まった結果、病巣治癒および予後の向上に繋がったという仮説が成り立ちます。一方、この事象は、単に、騸馬には繁殖転用の選択肢が無いため、OC病変の重篤度や治癒度合いに関わらず、アグレッシブに競走使役を試みたという、馬主や調教師による管理方針のバイアスが働いた、という可能性も否定できないと考察されています。

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