馬のクッシング病の薬物療法での長期的効能
馬の飼養管理 - 2023年06月07日 (水)

馬のクッシング病は、下垂体中葉機能異常(PPID: Pituitary pars intermedia dysfunction)のことを指しています。近年、ウマの寿命の伸びに比例して、高齢馬のクッシング病も増えており、その薬物療法に関するエビデンスも示されています。ここでは、馬のクッシング病に対する治療薬の効き目を、長期的に評価した知見を紹介します。
参考資料:
Christa Leste-Lasserre, MA. Pergolide Study Shows Long-Term Improvement in PPID Horses. The Horse, AAEP Convention 2022, Article, Cushing's Disease, Horse Care, Older Horse Care Concerns, Welfare and Industry: Jan 15th, 2023.
馬のクッシング病の治療にペルゴリドを使用すると、殆どの場合に臨床症状の改善が見られ、内分泌検査の数値が安定することもあります。そして、投与量を少なく維持した場合でも、同様の効能が得られることも分かってきています。
馬のクッシング病に対する、長期間(十年以上)の薬物療法での効き目を評価した研究によれば、ペルゴリドの効能は、病気を完治させて寿命を延ばすというよりも、病気による症状をコントロールして、長期間にわたって、生活の質を向上させることだと言われています。ミシガン州立大学の馬の内科教授であるハロルド・ショット博士によれば、ペルゴリド治療に対して、馬主の満足度は非常に高いと述べられています。

近年、馬のクッシング病に対する薬物療法として、ペルゴリドを処方する獣医師は増えていますが、それによる長期的な効能に関しては、まだ研究が不足しています。2022年の全米獣医師協会(AAEP)の学会において、ショット博士は、クッシング病へのペルゴリド投与は、ますます認識されてきているものの、長期的な治療を決断する際には、馬主にとって経済的な課題が大きく影響しうると述べています。
ショット博士の研究チームは、2009年以降、クッシング病の薬物療法を受けている、28頭の馬と2頭のポニーの健康状態を追跡してきました(治療開始時の平均年齢は23.1歳)。これらの症例の半数は、1mg/日の投与量で治療を開始し、残りの半数は、その2倍の量で治療を開始しました。そして、治療開始後の12年間における、各症例の検査結果の解析、および、馬主への聞き取り調査が実施されました。
その結果、これらの症例馬は、ペルゴリド投与を開始してから、平均して3年以上は生存しましたが、その生存期間は、7ヶ月から12.5年まで多様であったことが分かりました(30頭のうち1頭はまだ生存していた)。

これらの症例のうち、生存中の1頭を除いた29頭において、クッシング病に起因する蹄葉炎のために安楽死となったのは、5頭のみであったと報告されています。他の24頭は、高齢の馬によく見られる病気のために安楽死または死亡しており、つまり、天寿を全うするまで、クッシング病を制御できたと推測されています。
また、比較的に低用量から治療を始めた7頭も、その2〜5年後には、2mg/日に増量されましたが、全体的に見れば、臨床症状の持続的な改善が示されていました。治療開始から5年半後の時点でも、生存していた13頭の症状には改善が見られており、具体的には、毛並みの良化、エネルギーレベルの向上、食欲増進、蹄葉炎による跛行発現の減少などが確認されました。ショット博士によると、約3/4の症例では、内分泌試験の数値も正常になったことが報告されています。
ショット博士は、ペルゴリドの長期投与後によって、このような効能が示されたのは驚きであると述べていますが、治療開始の4年後に内分泌試験の結果が正常だったのは、約三割の症例(2/6頭)であったと付け加えています。一方で、クッシング病の馬に対する薬物療法に対して、馬主たちは非常に満足していたとも述べられています。

例えば、十年以上の治療が行なわれた馬においては、薬物療法が生活の質を向上させたか?という質問に、71%の馬主が強く同意し、他の25%が同意したと述べられています。さらに、この治療を今後もずっと続けるか?という質問には、88%の馬主が、同意または強く同意していました。また、馬主の約3/4が、終生、ペルゴリド治療に年間1,000ドル以上を費やしても構わないと回答していました。
以上の結果から、クッシング病の罹患馬に対する薬物療法では、ペルゴリド投与によって症状が改善して、生活の質が向上することが期待され、クライアントの満足度や、費用対効果があると感じる度合いも高いことが示唆されました。
今後の研究では、薬物療法によっても蹄葉炎を完全には予防できなかった症例を精査して、その理由や、どのような他の治療(飼養管理法、装蹄療法、手術など)を併用すれば良かったか等を考察するのが有益だと言えるでしょう。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
・馬のクッシング病の経過評価について
・「青い光」で馬のクッシング病対策
・馬を夜間だけ放牧させるメリット
・馬の病気:クッシング病