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高齢馬での便秘疝の予防対策

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馬の疝痛のなかでも、最も多い原因疾患は便秘疝だと言われており、通常これは、大結腸の食滞を指しています。ここでは、三十歳近い高齢馬に起こった便秘疝に関して、その再発予防のための対策を述べた知見を紹介します。

参考資料:
Clair Thunes, PhD. Preventing Impaction Colic Recurrence: Our equine nutritionist offers feeding advice to minimize the risk of impaction colic in senior horses. The Horse, Article, Colic, Digestive Tract Problems, Hay, Horse Care, Horse Nutrition, Older Horse Care, Water & Electrolytes: Jan 26, 2023.

ホースマンにとって、馬の疝痛はとても怖い経験であり、明確な疝痛原因が分からないことに不安を駆られるかもしれません。そして、便秘疝の再発を、いかに予防するかに注力することになります。一般的に、便秘疝を起こす要因としては、馬体の脱水や飼料の消化不良が含まれますので、飲水量や健常な腸内発酵を維持することが予防対策となります(腸の通過を物理的に妨げる根本的な原因が無い限りは)。



塩分と飲水

脱水を防ぐ最善の方法は、馬が充分に飲水してくれることに他なりません。そして、渇水を維持するためには、毎日のナトリウム摂取が有用ですので、飼料へ適切な量の塩分を添加することが重要です。このため、馬房に岩塩を設置することもありますが、それを適切に馬が利用するとは限りません。

通常サイズ(体重455kg)の馬に対しては、ナトリウムの必要摂取量を満たすため、一日に約28グラム(1オンス)の塩分を給餌することが推奨されます。これは、毎月900グラム分(2ポンド)の岩塩を舐めることに相当しますが、この量を消費する馬は殆どいません。このため、岩塩を馬房に置きつつも、毎日、スプーン2杯分(約28グラム)の食塩を飼料添加するのが望ましいと言われています。

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気温の高い夏季には、やや多めの塩分を与えるのが望ましく、また、もし塩の添加で、飼料の嗜好性が落ちる馬に対しては、電解質を含むサプリを使うことも出来ます。ただ、この場合には、塩をゼロにしてサプリを添加するのではなく、嗜好性が落ちない量の塩を添加しつつ、補助的にサプリを混和することが推奨されます。

充分に塩分を摂っている馬は、自発的な飲水を示すようになりますので、常に馬房に飲料水があるように努めましょう。関節痛などを持っている高齢馬では、馬房内を歩き回らなくても良いように、複数の水桶を設置するのも一案です。また、飼い桶のすぐ傍に水桶を設置することで、飲水を促せることもあります。



乾草を水に浸す

便秘疝の予防のためには、乾草を水に浸けてから給餌する方策もあります。これにより、水桶から飲水しなくても水分が摂取されますし、乾草が柔らかくなって、咀嚼を容易にするという効果も得られます。もし、水に浸した乾草を給餌し始めたときには、水桶からの飲水が減少することもありますので、この点には注意しておきましょう。

高齢馬においては、たとえ歯のケアが適切でおっても、顎の筋力の低下によって、充分に咀嚼できないこともあります。咀嚼が不十分なまま嚥下された乾草は、便秘疝の原因になる危険性が高いため、乾草を水に浸すことが推奨される訳です。また、摂食前に水を含ませた乾草では、消化管内での発酵も行なわれ易くなります。

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そして、高齢馬のなかには、放牧地で青草を食むことで、より水分が多く柔らかい草を摂取できるため、便秘疝の予防に繋がることもあります。ただし、春先の牧草地に急に放牧すると、新鮮で糖分の多い青草を過食して、逆に便秘疝を誘発したり、内分泌病の素因となることもあるので注意しましょう(放牧時間を制限したり、ゆっくり草を食ませる構造のマズルを装着させる等)。



乾草をペレットに代える

高齢馬によっては、丈の長い乾草の代替として、乾草ペレットを与えるのも一案です。ペレットを噛むと、容易に細かく破砕されるので、食滞を起こすのを防ぐことが出来ます。また、ペレットを水に浸して給餌することも可能で、必要であれば、ブランマッシュのようなお粥状、または、スープ状にすることも出来ます。

ただ、このような流動食は、咀嚼不全が重篤な馬のみに適応すべきであり、歯がまだ健康な高齢馬では、可能な限り乾草を与えて、咀嚼を促すことも大切です。なぜなら、充分な咀嚼を行なうことで、唾液の分泌量と嚥下量が増して、腸内での潤滑作用が付与されますし、摂食時間を長くすることで、胃潰瘍を予防したり、馬が退屈する時間を減らせる(悪癖を覚えさせない)というメリットが期待されるからです。

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健康な大腸を維持する

飲水や咀嚼を向上させることに併行して、大腸内での食渣の発酵を促進することも有益です。近年の研究では、生菌剤を飼料添加することで、大腸にいる腸内細菌が飼料成分をより有効に利用できることが分かっています。大腸内での発酵が良化することは、食滞を予防することにも繋がります。

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適度に運動させる

さらに、馬に適度な運動をさせることも、健常な消化を促すのに役立つと言われています。高齢馬の中には、関節痛などで騎乗使役から引退したことで、運動不足に陥いる馬もいますので、関節を使うことの不快感を軽減させるため、獣医師に診察や治療を依頼しましょう。もし、その高齢馬を放牧させるのが難しい場合には、毎日必ず曳き馬または調馬索運動をさせることが推奨されます。

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便秘疝の予防のために重要なこと

残念ながら、歯や四肢に問題を抱えた高齢馬は、若い馬たちと同じように咀嚼や運動をするのは困難であり、根治させることも難しいと言えます。幸いにも、馬の便秘疝の多くは、深刻な病態に進行する割合は低く、適切な措置(絶食、用手給水、獣医師による補液や下剤など)を早期に講じることで、数日間で回復するケースが多いことが知られています。

このため、上記のような対策を取ると共に、その高齢馬の飲水量や残飼、活力、ボロの量、そして、目つきや表情などから、便秘疝の徴候を見逃さないようにすることが、予防のために一番大切であると言えるでしょう。

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