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熱融着を用いた馬の空腸盲腸吻合術

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一般的に、馬の空腸を盲腸に吻合する治療法は、空腸・回腸・盲腸などが絞扼壊死または機能不全を呈したときに、健常な部位同士を吻合して、空腸または盲腸の異常個所を迂回させる目的で実施されます。この際には、用手縫合または腸管ステープルを用いて、側々で吻合することで、十分に広い開口部を形成する術式が選択されることが多いと言えます(空腸と盲腸では内径が大きく違うため)。

ここでは、この空腸盲腸吻合術において、高周波熱融着(Radiofrequency thermofusion)の機器を使って、迅速に腸管同士を吻合させる手法を評価した知見を紹介します。今回テストされた熱融着の機器は、電気メスや腹腔鏡のシーリングデバイスなどに応用されている技術で、組織内に高周波を通過させて発熱させ、組織同士を接着させる手法になります。

参考文献:
Gandini M, Cerullo A, Gallo L, Iussich S, Minoli L, Giusto G. Ex vivo evaluation of a technique for equine jejunocecal anastomosis using radiofrequency thermofusion and a Cushing oversew. Vet Surg. 2023 May;52(4):545-553.

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この研究では、屠体から採取した消化管を用いて、空腸盲腸吻合術が作成され、その際に、高周波熱融着の機器を用いて接着させた後、その外側からカッシング縫合で補強する術式、用手で二層縫合(全層縫合+カッシング縫合)する術式、および、腸管ステープルで吻合させる術式、という三種類が実施され、破裂内圧や手術時間の計測による比較が行なわれました。

結果としては、吻合箇所の破裂内圧(平均値)を見ると、熱融着+カッシング法(76mmHg)のほうが、腸管ステープル法(48mmHg)よりも物理強度的に有意に優れていましたが、用手二層縫合法(153mmHg)のほうが、それよりも更に優れていることが分かりました。一方、吻合形成に要した手術時間の平均値は、用手二層縫合法(26分間)よりも腸管ステープル法(11分間)のほうが有意に短かったものの、熱融着+カッシング法(16分間)は何れの群とも有意差はありませんでした。

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このため、馬の空腸盲腸吻合術においては、熱融着をカッシングで補強する術式によって、腸管ステープルを用いた術式よりも強度が高く、用手で二層縫合する術式よりも、やや短時間で施術できることが示されました。ただ、今回の研究では、腸管ステープルをカッシングで補強した術式との比較は行なわれておらず、また、用手で二層縫合する術式との時間的な差異は、僅か10分間ほどであったため、物理的強度の違いを考えると、臨床的な治療効果の面で、明確に優れた方法と言えるかは疑問が残ると言えそうです。

今回の研究では、屠体を用いた体外実験であるため、吻合術後の組織修復の過程は評価されていませんでした。現時点では、熱融着を腸管吻合に用いることは、機器の本来の目的外であり、漿膜面の熱損傷によって術後に癒着を引き起こすリスクは否定できないと考察されています。一方、吻合箇所の内腔が拡張したときには、縫合糸やステープル針を使った場合には、糸や針の隙間から腸内容が漏れる危険性がありますが、熱融着された腸管は、殆ど隙間なく接着されるため、腸内容の漏出を防ぎやすいという効能は期待されると考えられました。

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