馬の病気:膝関節側副靭帯損傷
馬の運動器病 - 2013年09月07日 (土)

膝関節側副靭帯損傷(Stifle collateral ligament injury)について。
膝関節側副靭帯(Collateral ligament of stifle joint)の完全断裂(Complete rupture)および靭帯炎(Desmitis)は、内側側副靭帯(Medial collateral ligament)に好発し、転倒や蹄を外側へ滑らせるなどの外傷性に発症すると考えられています。膝関節は多くの堅固な結合組織で支持されているため、膝関節側副靭帯の損傷を起こした症例では、半月板(Meniscus)や十字靭帯(Cruciate ligament)などの異常を併発する場合が多いことが報告されています。
膝関節の側副靭帯損傷を起こした症例では、中程度~重度の跛行(Moderate to marked lameness)、膝関節の内側面および外側面における腫脹と熱感(Swelling and heat)、膝関節の不安定性(Stifle joint instability)(完全断裂の場合)などが認められます。触診では、遠位肢を外転方向に引き、膝関節の内側面に負荷を掛ける手動操作(Manual stressing in stifle valgus direction)によって、疼痛反応(Pain response)またはその後の跛行悪化(Lameness exacerbation)が見られますが、膝関節麻酔(Stifle joint block)では跛行改善が起きない場合が殆どです。
膝関節の側副靭帯損傷のレントゲン検査(Radiography)では、完全断裂の症例においては、大腿脛骨関節(Femorotibial joint)の異常な関節腔拡大(Abnormal opening of joint space)が見られ、不完全断裂とそれに伴う靭帯炎を呈した症例においては、脛骨や大腿骨の側副靭帯付着部の破片化(Tibial/Femoral fragmentation)や付着部増殖体形成(Entheseophyte formation)などが確認されます。また、超音波検査(Ultrasonography)では、側副靭帯の肥厚化(Thickening)(正常な靭帯の厚さは4~5mm)、健常な靭帯繊維走行の破損(Disruption of ligamentous fiber alignment)、低エコー性の限局性病巣(Hypoechoic focal lesion)などが確認され、また、正確な予後判定(Accurate prognostication)のため、半月板および十字靭帯の損傷の有無および重篤度(Severity)を確かめる事も重要です。
膝関節の側副靭帯損傷の治療では、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与と馬房休養(Stall rest)(完全断裂では6~12ヶ月、不完全断裂では2~3ヶ月)が行われ、超音波検査によって靭帯の治癒過程をモニタリングすることで、慎重に運動開始時期を判断することが大切です。副木肢巻(Splint bandage)やギプス(Cast)などの外固定法(External fixation)では、充分な膝関節の不動化(Stifle immobilization)は難しいため実施は推奨されていません。また、救助療法(Salvage procedure)として、ポリエステルブレイド素材を用いて靭帯断裂部を整復する外科療法も報告されています。
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