馬の文献:飛節内腫(Axelsson et al. 2001)
文献 - 2023年06月16日 (金)

「アイスランドホースの飛節遠位の変性関節疾患による後肢跛行の危険因子」
Axelsson M, Bjornsdottir S, Eksell P, Haggstrom J, Sigurdsson H, Carlsten J. Risk factors associated with hindlimb lameness and degenerative joint disease in the distal tarsus of Icelandic horses. Equine Vet J. 2001 Jan;33(1):84-90.
この症例論文では、馬の飛節内腫の原因を解明するため、飛節遠位の変性関節疾患(DJD)に起因する後肢跛行を起こした420頭のアイスランドホースにおける、医療記録の回顧的調査と、194頭の対照馬と比較して算出したオッズ比(OR)による危険因子の解析が行なわれました。
結果としては、飛節DJDの発症(跛行の発現)と年齢とのあいだに正の相関が認められており、飛節DJDの発症馬の平均年齢(8.1歳)は、対照馬の平均年齢(7.8歳)よりも有意に高くなっていました。このため、年齢が一歳増えるごとに、飛節DJDを発症する確率が約八割も増える(一歳ごとのOR=1.76)ことが分かりました。また、四歳と六歳の馬群を比べると、後者の方が、飛節DJDを発症する確率が十倍以上も高い(OR=12.1)ことも示されました。さらに、X線で飛節DJDの所見が見られた馬の平均年齢(8.5歳)は、X線が正常な馬の平均年齢(7.6歳)よりも有意に高いことも分かりました。
このため、飛節DJDの病因として、持続的な運動負荷による関節軟骨の損傷が蓄積することが、飛節疾患の発生に関与していた危険性は否定できないと言えます。一方、この研究では、18種類の血統のあいだで比較したところ、そのうちの2種類では、飛節DJDの発症リスクが八倍以上も高い(OR=8.3/8.9)ことが分かり、更に、アイスランド国内の地域のうち、北部及び南部地方の牡馬血統では、飛節DJDの発症リスクが半分以下まで低くなる(OR=0.27/0.41)というデータも示されています。このため、単に年齢だけでなく、各馬の血筋によって、経年変化の起こり易さや、飛節DJDの発症に対する影響度合いとのあいだに、相互作用が存在する可能性もあると考えられました。
この研究では、後肢の肢勢が、飛節DJDの発症に関連していることも確認されました。具体的には、飛節DJDの発症馬の飛節角度は平均148.7°であり、対照馬(149.2°)よりも少ないことが分かりました。その結果、飛節角度が1°増すごとに、飛節DJDを発症する確率が約二割減少(1°ごとのOR=0.83)していました。これに関連して、飛節DJDの発症馬の臀部の高さは平均135.7cmであり、対照馬(136.2cm)よりも低いことが分かりました。そして、臀部の高さが1cm増すごとに、飛節DJDを発症する確率が約一割減少する(1°ごとのOR=0.87)ことも示されました。なお、飛節のサイズ(内外側や背底側の幅)、および、鬐甲部の高さは、飛節DJDの発症と有意には相関していませんでした。
このように、球節の鈍角さや腰高の肢勢が、飛節DJDのリスクを下げるという知見は、古典的に言われている、直飛(飛節角度が大きく、真っ直ぐに近い肢勢)のほうが飛節内腫を起こし易い、という通説とは相反しているデータなのかもしれません。ただ、今回の研究の調査対象は、多くが十歳以下であり、また、飛節角度の差異も1°未満の小さなものであるため、他の品種や年齢層における飛節DJDの危険因子と合致するかは明らかではありません。もしかすると、発症馬群における飛節角度の少なさは、蹄の外旋や軽度の鎌状飛節など、若齢馬における後肢の肢軸不正を反映していて、そのような肢勢を生む後躯の不安定性が、飛節の遠位関節への捻れや歪みに繋がり、DJD発症を誘発したという仮説が成り立つのかもしれません。
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