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疝痛で獣医を呼ぶときの判断基準

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馬の消化器疾患(疝痛)は、ホースマンが獣医師に緊急連絡する理由の第一位となっています。そして、疝痛の原因疾患の中には、早期治療が重要なものも多いことから、ホースマンが、馬が疝痛を起こしているかを見分け、その疝痛がどれほど深刻であるかを正しく判断することが重要となってきます。

ここでは、ホースマンが疝痛馬に遭遇したときに、どのような状況で獣医師に連絡するかの判断基準を調査した知見を紹介します。この研究は、英国のリバプール大学のもので、688人のホースマンに対する聞き取りによって、疝痛馬の診察を獣医師に依頼する、という判断を下すときの諸要因についての見解が調査されました。

参考文献:
Scantlebury CE, Perkins E, Pinchbeck GL, Archer DC, Christley RM. Could it be colic? Horse-owner decision making and practices in response to equine colic. BMC Vet Res. 2014;10 Suppl 1(Suppl 1):S1.

結果としては、疝痛馬が示すことのある諸々の臨床症状に対して、ホースマンの認識には多様性が大きいことが分かり、同じ症状を見ても、それを疝痛だと認識する場合もあれば、疝痛とは関連が無いと考える場合もあることが再確認されました。また、個々のホースマンの知識や経験の相違により、疝痛症状の認識の差異が生まれてしまうことも示唆されています。

このため、ホースマンと獣医師とのコミニュケーションの中では、疝痛症状には多様な個体差があることを伝えることが大事だと考えられました。そして、稟告を取る際には、疝痛症状を示しているか?という設問に加えて、普段と異なる行動・仕草・表情などを全て挙げてもらったり、具体的な症状名を出して、その有無を尋ねる必要があることが示されました。

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この研究では、疝痛馬が示す諸症状のうち、ホースマンが速やかに獣医師に連絡するか否かには、多様性が大きいことが分かりました。このため、同じ疝痛症状を見ても、直ちに獣医師への連絡がなされるとは限らないことが示されました。このため、疝痛症状の解釈として、症状のタイプよりも、その度合いや反復性が重要であることを、ホースマンに認識してもらうことが有用だと考えられました。

この研究では、疝痛馬が示しうる症状の中でも、馬が疲労していたり、ナーバスな時にも見られる症状では、獣医への電話連絡が保留されるケースが八割を超えること分かりました。これには、目つきに覇気がない、寝そべる、エサを残す、前掻きする、馬房内で歩き回る、落ち着きが無い、左右前肢を頻繁に踏み替える、などが含まれました。

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この研究では、馬が疝痛症状を示したときに、ホースマンがどのように対処するかの考え方にも、かなりの個人差が認められました。具体的な考え方とその回答率を見ると、「疝痛の経過を見てから獣医を呼ぶ」と回答したホースマンが25%に及んだほか、「自分自身で対処してみて(曳き馬など)、疝痛が治まらなければ獣医を呼ぶ」という回答も55%でした。また、「疝痛が悪化しているかは自分で判断できる」と回答したホースマンが78%となっており、さらに、「特定の疝痛症状が認められたら獣医を呼ぶ」という回答も82%でした。

一般的に言えば、疝痛を起こした馬の六割以上は、獣医師の治療を要することなく、絶食や用手給水、曳き馬運動などで自然治癒することが知られています。このため、ホースマン自身が疝痛症状の深刻さを見極めて、獣医師に診察を依頼するか否かを判断するのは自然な流れだと言えます。ただ、疝痛の原因疾患の中には、急激に病態が悪化して、治療が手遅れとなるものも存在するため、早期診断と早期治療の重要性については、強調しすぎることは無いのだと考えられます。

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また、一般的なホースマンの認識として、前掻きやゴロゴロ転げ回るなど、明らかな疝痛症状が見られた時点で、初めて、「疝痛を発症した」という稟告をすると推測されます。このため、実際に獣医師が疝痛馬を診察するときには、目つきに覇気が無くなったり、飼いを残している等の、僅かな疝痛の初期徴候が無かったかについても、具体的かつ細かく設問をして、疝痛の経過時間を過小評価しないよう注意するのが重要であることを、あらためて認識させられるデータが示されたと言えるでしょう。

Photo courtesy of BMC Vet Res. 2014;10 Suppl 1(Suppl 1):S1.

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このエントリーのタグ: 疝痛 獣医療

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