馬の文献：飛節内腫（Adkins et al. 2001）
文献 - 2023年06月23日 (金)
「骨関節炎を呈した17頭の馬に対する遠位足根関節の外科的関節固定術」
Adkins AR, Yovich JV, Steel CM. Surgical arthrodesis of distal tarsal joints in 17 horses clinically affected with osteoarthritis. Aust Vet J. 2001 Jan;79(1):26-9.
この研究では、馬の飛節内腫に対する外科的治療の効能を評価するため、豪州のマードック大学の獣医病院において、遠位足根関節の骨関節炎を呈した17頭の馬に対して、ドリル穿孔による外科的な関節固定術が実施され、術後の長期的経過が調査されました。
結果としては、術後における健常歩様への回復を治療成功と定義した場合、長期的な経過追跡ができた馬のうち、治療の成功率は71%（12/17頭）に達していました。このうち、片方の飛節のみ施術された馬では、治療の成功率は85%（6/7頭）に上ったのに対して、左右両方の飛節を施術した馬では、治療成功率は60%（6/10頭）に留まっていました。また、競走馬の症例に限って見ると、スタンダードブレッドでの治療成功率は100%（8/8頭）に及んでいた一方で、サラブレッドでの治療成功率は67%（4/6頭）に過ぎませんでした。
このため、馬の飛節内腫に対しては、外科的な関節固定術によって、健常歩様および競走能力の回復が見られ、良好な予後を示す症例が多いことが示唆されました。また、サラブレッドよりもスタンダードブレッド、両側よりも片側の飛節内腫のほうが優れた治療成績を示しており、手術から競走復帰までの休養期間は、平均9.5ヶ月で済んだことが報告されています。
この研究では、外科的関節固定術の手法として、遠位足根骨間関節および足根中足関節に対して、楔腱の切断術を介してアプローチした後、X線誘導により3.2mmのドリル穿孔が施されました。この際には、同一関節腔において、一箇所の穿入口から頭尾側へ扇状になるように、三方向へのドリル穿孔が実施されました。また、全ての症例において、X線画像上での所見に関わらず、両方の関節腔に対して施術されました。術後の疼痛は軽度で、三週間以内にはパドック放牧が可能となり、鎮痛剤の投与は術後の数日間のみで充分であったことが報告されています。
この研究では、術前の診断麻酔において、飛節遠位の２つの関節のうち、両方に疼痛が確認されたのは81%（17/21後肢）に及んでいました。この理由としては、両関節腔のあいだに連絡性があり、骨関節炎の病態が波及していたと推測されています。一方で、過去の論文では、この両関節が連絡している馬は23〜38%であることが示されていました。今後の研究では、診断麻酔の際に、造影X線を併用することで、飛節内腫の罹患馬における両関節腔の連絡性について精査する必要があると推測されました。
この研究では、遠位足根関節へのドリル穿孔によって、関節面全体の約六割に及ぶ関節軟骨を除去することで、術後に深刻な跛行を呈することなく、良好な関節固定術（足根骨同士の骨癒合）が達成されました。過去の文献では、関節軟骨の九割を除去するという術式も試みられていますが、重度疼痛の合併症を示すなど、術後の弊害が大きかったことが報告されています（Barber et al. Vet Surg. 1984;13:227）。また、プレートを用いた内固定術を介した手法もありますが、侵襲性やコストの割には、治療効果の向上は限定的であるため推奨されていません。
この研究では、術後には騎乗運動を制限して、放牧飼養を中心とすることが推奨され、術後の六ヶ月目に歩様異常が残っている場合には、速歩運動を課すという方針が取られました。一般的に、飛節の関節固定術では、運動による刺激により骨癒合が促進されると仮説されています。なお、足根骨間関節の癒合完了までに要する期間は個体差が大きいため、術後の12ヶ月目までは経過観察してから予後判断することが推奨されています。
Photo courtesy of Aust Vet J. 2001 Jan;79(1):26-9.
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