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疝痛の獣医療での地域差:ノルウェー

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馬の疝痛では、各地域で飼養されている馬の品種や年齢、用途、飼養形態などの要因に起因して、発症状況や医療ケアの方針に関して地域差が生まれると考えられます。そして、どの要因が、どのような地域差に繋がるのかを知ることで、海外の知見を日本での馬の獣医療に応用する際に、どのエビデンスを重視するか、または、重視するべきではないのかを推測するのに役立つと言えます。

ここでは、北欧のノルウェーにおける、馬の疝痛の獣医療に関する知見を紹介します。この研究では、オスロにあるノルウェー国立獣医大学の大動物病院において、疝痛の診療を受けた106頭の症例馬における医療記録の回顧的解析、および、オッズ比(OR)の算出による生存率を下げる危険因子の評価が行われました。

参考文献:
Ihler CF, Venger JL, Skjerve E. Evaluation of clinical and laboratory variables as prognostic indicators in hospitalised gastrointestinal colic horses. Acta Vet Scand. 2004;45(1-2):109-18.

結果としては、内科的治療が選択された症例群(内科疝痛)と、開腹術を要した症例群(外科疝痛)において、それぞれ46頭の症例が含まれました。そして、内科疝痛における生存率は78%(36/46頭)に上ったのに対して、外科疝痛における生存率は48%(22/46頭)に過ぎませんでした(症例全体の生存率は63%)。しかし、開腹術が必要と判断されたにも関わらず、経済的な理由で廃用となったケースが14頭あったため、実際の外科疝痛の生存率は、前述の値と異なる可能性があると推測されます。

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この研究では、疝痛の原因疾患によって、生存率に多様性が認められました。有病率の高い疾患としては、結腸食滞が29頭で、その生存率は86%(25/29頭)となっており、次いで、結腸変位が25頭で、生存率は64%(16/25頭)となっていました。また、その他の疾患における生存率は、非特異的な疝痛が91%(10/11頭)、小腸絞扼が17%(2/12頭)、大腸炎が63%(5/8頭)、腹膜炎が0%(0/7頭)となっていました。

この研究では、特定の検査項目が、予後判定指標になりうる傾向が認められました。内科疝痛の症例群では、非生存馬のほうがPCV値が高いことが示されており、内科疝痛におけるPCV値が1%上がるごとに、生存できない確率が二割以上も高くなる(1%ごとのOR=1.22)ことが分かりました。一方で、外科疝痛の症例群では、非生存馬のほうが心拍数が多いことが示されており、外科疝痛における心拍数が10回/分増えるごとに、生存できない確率が三倍も高くなる(10回/分ごとのOR=3.00)というデータが示されました。更に、外科疝痛が口腔粘膜の色調異常が認められた場合には、生存できない確率が二十倍近くも高い(OR=18.23)ことが分かりました。

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この研究では、患馬の年齢や性別は、疝痛の予後とは有意には相関していませんでした。しかし、今回の研究のサンプル数は、分類群で30症例以下のものもあったため、十分な検出力が得られなかったと推測されています。また、術前の疼痛スコアも生存率とは相関しておらず、過去の文献とは相反するデータが示されました。しかし、今回の研究では、搬入された時点での疼痛スコアのみが解析対象となっており、殆どの症例で、一次診療の時点や輸送中に非ステロイド系抗炎症剤が投与されていたため、入院の時点での疼痛スコアが、消化管病態の重篤度を正確には反映していなかったと考えられました。一方で、抗炎症剤や鎮痛剤の投与にも関わらず、回帰性の疼痛を呈した場合には、開腹術の適応と判断するという指針が用いられており、外科疝痛の生存率は低かったことから、難治性の疼痛と予後の悪さが相関するという考察がなされています。

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