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ニュージーランドの競走馬での突然死の危険因子

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一般的に、突然死(サドンデス)とは、健康な生活を営んでいた個体が急に死亡する現象を指します。幸いにも、ヒトでも動物でも、極めて稀な事象ではありますが、治療は間に合わないため、如何に未然に防ぐかが鍵となります。このため、馬の突然死においても、その病因の特定、および、発生に寄与する危険因子を解明して、突然死の予防を図ることが重要になってきます。

ここでは、ニュージーランドのサラブレッド競走馬における、平地レース中に起こった死亡事例について(2011~2021年における169頭)、レースや馬の情報の解析、および、罹患率比(IRR: Incidence rate ratios)の算出による危険因子の評価を行なった知見を紹介します。この研究では、競走馬のレース中の死亡事故の原因として、心不全が19%(32/169頭)、致死的骨折が76%(129/169頭)、致死的な軟部組織損傷が5%(8/169頭)となっていました。

参考文献:
Gibson MJ, Legg KA, Gee EK, Rogers CW. The Reporting of Racehorse Fatalities in New Zealand Thoroughbred Flat Racing in the 2011/12-2021/22 Seasons. Animals (Basel). 2023 Feb 9;13(4):612.

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結果としては、レースで死亡した競走馬のうち、生涯出走数が九回以上の馬のほうが、心不全で死亡する割合が約三割も高い(IRR=1.3)(生涯出走数が八回以下の馬に比べて)、ことが分かりました(ワルドp値=0.607)。また、五歳以上の馬のほうが、心不全で死亡する割合が二倍以上も高い(IRR=2.1)(四歳以下の馬に比べて)、ことも示されています(ワルドp値=0.040)。これらのデータは、心不全による突然死では、調教や加齢による心肺組織の損傷蓄積が病因である可能性を示唆するもので、過去の文献とも合致する知見であると考察されています(Lyle et al. EVJ. 2012;44:459)。

この研究では、レース距離を、短距離(1,400m以下)、マイル(1,401~1,799m)、中距離(1800~2099m)、長距離(2,100以上)に分類すると、心不全で死亡する割合が、長距離レースでは二倍以上も高い(IRR=2.5)ことが示され、短距離レース(IRR=1.3)やマイルレース(IRR=1.6)でも、中距離レースに比較して高くなっていました(ワルドp値=0.490)。また、馬場状態の違いを見ると、心不全で死亡する割合が、重馬場では三割減(IRR=0.7)、やや重馬場では一割減(IRR=0.9)となることが示されています(良馬場に比較して)(ワルドp値=0.693)。これらのデータから、心不全による突然死では、レース距離の長さや、良馬場のコンディションが危険因子になる可能性が示唆されています。

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この研究では、レースで死亡した競走馬のうち、致死的骨折で死亡する割合は、短距離レースでは五割も低い(IRR=0.5)ことが示され、長距離レース(IRR=0.9)やマイルレース(IRR=0.7)でも、中距離レースに比較して低くなっていました(ワルドp値=0.014)。また、馬場状態の違いを見ると、致死的骨折で死亡する割合は、重馬場では五割も低い(IRR=0.5)ことが分かった反面で、“硬い”馬場では二倍も高い(IRR-2.0)ことも示されています(良馬場に比較して)(ワルドp値=0.004)。これらのデータから、競走馬の致死的骨折においても、レース距離の長さや、硬い馬場コンディションが危険因子になると推測されています。

この研究では、調査対象となった十年間を通して、レースで死亡した競走馬に関する報告内容がより詳細になったことが確認され、ニュージーランドの競馬業界の情報開示義務が厳格になったことが一因であると考察されています。そのように、競走馬の死亡事象に関わるデータを解析したり、死亡後の剖検を詳細に実施することで、突然死に関与している危険因子の予測が深化することに繋がったと述べられています。そして、将来的にも、エビデンスに基づく競走体制の変革を促し、その変革がもたらす効能を評価するのにも役立つという提唱が成されています。

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