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馬の外傷にバンテージを巻くべきか?

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ホースマンにとって、馬が外傷を負ったときに、バンテージを巻くかどうかは迷いどころかもしれません(特にキズが浅い場合には)。ここでは、馬の外傷にバンテージを巻くべきかについて解説した知見を紹介します。

参考資料:
Christa Leste-Lasserre, MA. Managing Horse Wounds: To Bandage or Not to Bandage? The Horse, Article, Horse Care, Injuries & Wounds, Lameness, Lower Limb, Wound Management: Mar 23rd, 2023.

参考文献:
Kamus LJ, Theoret C, Costa MC. Use of next generation sequencing to investigate the microbiota of experimentally induced wounds and the effect of bandaging in horses. PLoS One. 2018 Nov 26;13(11):e0206989.

通例的には、ケガした馬の肢にバンテージを巻くかどうかは、個々のホースマンの好みによる所が大きく、それには、過去の経験、キズの位置(バンテージを巻きにくい箇所もあるため)、バンテージ素材がどの位あるかどうか、等に影響されたかもしれません。しかし、近年では、バンテージを巻くことによる、馬の皮膚への好影響と悪影響が研究されてきています。

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カナダのモントリオール大学のマルシオ・コスタ博士によると、馬の外傷にバンテージを巻くべきかを完璧に見分けるのは難しいものの、外傷の治癒過程において、皮膚で何が起きているかは判明してきている、と述べています。コスタ博士の研究では、実験馬の体躯や管部に人工的に作成した創傷部にいる細菌群を、バンテージの有無で比較しています。

その結果、バンテージを巻くか否かで、馬の外傷は異なった治癒過程を取ることが示されました。この実験では、バンテージを巻いた外傷は全て肉芽組織形成を伴い、バンテージ無しに比べて、一週間ほど治癒に要する期間が長かったことが報告されています。一方で、バンテージを巻くことで、外傷部に対して、周囲環境からの更なる細菌汚染が起こるのを抑えられたことも分かりました。

また、肢よりも体躯のキズのほうが治りは早いことも示されており、体躯の外傷の治癒期間は平均62日であったのに対して、管部の外傷(バンテージ無し)の治癒期間は平均83日となっていました。この要因としては、肢の外傷のほうが、炎症期が長く、創口の拘縮および上皮化が起こりにくく、肉芽組織の増生もより大きい傾向にあったこと等が挙げられています。

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この研究では、馬の肢にバンテージを巻くことで、皮膚の温度や湿潤度、埃の量、酸素圧、土壌菌との交流などが撹乱されてしまい、皮膚常在菌の性状が変化してしまうことが示されています。これらは、外傷の治りを悪化または遅延させるリスクがあり、また、外傷部以外に皮膚炎を併発させたり、肉芽をより大きくしてしまう可能性もあると推測されます。さらに、そのようなバンテージ装着による皮膚常在菌の変化は、外傷が完治したあとも、長期間にわたって続いたため、繋皹などの他の皮膚病態を続発させることも懸念されます。

以上の結果から、馬の外傷部にバンテージを巻くことは、皮膚表面の細菌叢を変えてしまい、外傷の治癒遅延を引き起こす可能性があると考察されています。また、バンテージによる皮膚常在菌への影響は、長期間持続することから、これが、過剰な肉芽形成が続発する一因になっているのかもしれません。

その一方で、バンテージで下肢の創部を覆うことで、病原細菌の侵入を防いで、蜂窩織炎などの深刻な皮膚病の続発を未然に予防するという効能も期待されます。また、バンテージ装着させることで、物理的圧迫を掛けて皮下織浮腫を軽減させたり、馬が痒がって自傷するのを防ぐなど、創傷治癒に良い面もたくさんあると言えます。

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これらの知見を踏まえると、もし、馬の外傷部が素早く痂皮で覆われて、物理的に保護されるのであれば、バンテージは装着させないほうが良いと推測されます。また、バンテージを巻くときにも、装着期間は出来るだけ短くすること、肉芽の過剰増生が無いかを慎重に監視すること、および、健常部の皮膚の水洗や保湿を行なって、皮膚炎を併発させないよう取り組むこと、などに留意する必要があると言えそうです。

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