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馬の開腹術での抗生物質投与の傾向

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一般的に、馬は細菌感染に弱い動物であることが知られており、疝痛の開腹術においては、術創感染や腹膜炎を抑えるため、術前および術中の抗生物質投与が重要な要素を占めています。ここでは、馬の開腹術での抗生物質投与に関して、米国の内科および外科の専門医資格を持った113名の獣医師に対して、聞き取り調査を行なった知見を紹介します。

参考文献:
Rockow M, Griffenhagen G, Landolt G, Hendrickson D, Pezzanite L. Current Antimicrobial Use in Horses Undergoing Exploratory Celiotomy: A Survey of Board-Certified Equine Specialists. Animals (Basel). 2023 Apr 22;13(9):1433.

結果としては、馬の開腹術での術前投与としては、二種類の薬剤を併用する場合が殆どであり(96%)、選択する薬剤としては、ゲンタマイシン(98%)およびKペニシリン(74%)が最も多く、次いで、セフチオフル(20%)、セファゾリン(8%)、エンロフロキサシン(4%)となっていました。また、術前投与のタイミングは、30~60分前が最も多く(63%)、次いで、術前30分以内(29%)、術前60分以上(3%)となっていました。

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この研究では、術中に抗生物質の経静脈投与を追加で行なうという回答は21%に上っていました。その際には、抗生物質の半減期の半分を過ぎたタイミングで投与する、という回答が2/3を占めていました。さらに、術創周囲に抗生物質を塗布するという回答は25%であり、選択する薬剤としては、アミカシンが最も多く(32%)、次いで、ゲンタマイシン(14%)、ペニシリン(11%)、セファゾリン(7%)、ネオマイシン(7%)となっていました。

今回の研究は、あくまで、各専門医の治療方針を聞き取りしたもので、どの薬剤が最も治療効果が高いかを示したものではありません。ただ、殆どの病院において、アミノグリコシド系とペニシリン系の抗生物質が併用されていることから、馬の開腹術における感染予防において、この投与手法が有効であることが示唆されるデータであると言えます。また、術中の追加静注や、術創への塗布を実施している病院も一定数あったことから、症例のタイプや状況によっては、これらの投与手法が有用であるケースもあると推測されます。

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この研究では、術中に抗生物質の腹腔内投与を行なうという回答は12%に上っていましたが、必ずしも全症例に実施している訳ではなく、腹腔内投与の頻度に関しては、一割以下の症例に行なう(35%)、および、四割以上の症例に行なう(35%)などの回答が見られました。この際、選択する薬剤としては、Kペニシリンが最も多く(42%)、次いで、ゲンタマイシン(17%)、Naペニシリン(8%)、他種類のペニシリン(8%)となっていました。

この研究では、術後の抗生物質の投与期間は、疝痛の原因疾患に左右される傾向が認められました。具体的には、非絞扼性の疾患での開腹術では、抗生物質投与は術後の1~3日間(55%)が最も多く、次いで、術後の3~5日間(23%)となっていました。一方、絞扼性の疾患での開腹術では、抗生物質投与は術後の3~5日間(64%)が最も多いことが分かり、次いで、術後の5日間以上(20%)となっていました。なお、炎症性疾患における開腹術では、術後1~3日間の抗生物質投与が最も多くなっていました(50%)。

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この研究では、術後の抗生物質の投与期間が長くなる手術要因として回答されたのは、腸管切除術が最も多く(81%)、次いで、血液検査所見(75%)、腸管切開術(74%)となっていました。一方、術後の抗生物質の投与期間が長くなる臨床要因として回答されたのは、発熱が最も多く(85%)、次いで、術創感染(76%)、静脈留置合併症(67%)、血液検査所見(46%)、下痢症(33%)となっていました。

この研究では、特に術後の抗生物質においては、消化管絞扼や腸管切開など、腹腔汚染が重篤になりやすい場合には、より長期間にわたる投与が実施されるという傾向が認められました。近年の研究では、馬の開腹術後に五日間以上の抗生物質投与を行なっても、明瞭な治療効果への利益は無いという報告もあります(Stockle et al. Antibiotics. 2021;10:587)。一方、抗生物質の長期投与により術創感染が抑えられるという知見もあり(Smith et al. EVJ. 2007;39:277)、術後の投与期間は、此処の症例の諸要因を鑑みて、ケースバイケースで判断すべきという考察がなされています。

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このエントリーのタグ: 薬物療法 疝痛 手術

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