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馬の病気:タイラー病

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タイラー病(Theiler’s disease)について。

特発性の急性肝臓病(Idiopathic acute hepatic disease)を生じる疾患で、未だに病因論(Etiology)は確立されていませんが、アフリカ馬疫(African horse sickness)の免疫抗体血清(Hyperimmune serum)や破傷風の抗毒素(Tetanus antitoxin)などの投与に続発して発症することが報告されているため、人間のB型肝炎に類似するウイルス感染症である可能性や、肝毒性物質への暴露(Exposure to hepatotoxic substance)、および三型過敏症反応(Type-3 hypersensitivity reaction)の関与を示唆されています。1918年に、アーノルド・テイラーが発見した(アフリカ馬疫の免疫抗体血清の投与後)ことからこの病名が付けられましたが、急性肝壊死(Acute hepatic necrosis)、血清付随性肝炎(Serum-associated hepatitis)、血清病(Serum sickness)と呼ばれる場合もあります。

タイラー病の症状としては、急性肝不全(Acute hepatic failure)に起因して、抑鬱(Depression)、黄疸(Jaundice)、食欲不振(Inappetence)、異食症(Pica)、光活動性皮膚炎(Photoactive dermatitis)、肝性脳症(Hepatic encephalopathy:高濃度の循環アンモニアによる脳神経障害)などが見られ、進行性の体重減少(Progressive weight loss)、腹部皮下浮腫(Ventral subcutaneous edema)、頚静脈拍動(Jugular pulses)、腸閉塞(Ileus)、急性呼吸困難(Acute respiratory distress)等を呈する症例もあります。タイラー病の発症は、通常は散発性(Sporadically)ですが、同一牧場の多数頭が数ヶ月のあいだに発症した例も報告されており、また、夏季~秋季に発症が多いという知見もあります。

タイラー病の診断では、上述の病歴(4~10日以内の馬由来の血清および抗毒素の投与)と臨床症状にあわせて、血液検査によって非抱合型ビリルビン(Unconjugated bilirubin)、総ビリルビン(Total bilirubin)、胆汁酸(Bile acid)の濃度上昇と、GGT、SDH、AST、LDH、ALPなどの酵素活性の亢進が認められます。また、肝生検(Liver biopsy)による病理学的検査では、広範囲にわたる肝細胞壊死(Widespread hepatocyte necrosis)、好酸球性の顆粒状腫瘤(Eosinophilic granular mass)、炎症性細胞浸潤(Inflammatory cell infiltration)等が確認されます。肝臓の超音波検査(Ultrasonography)では、エコー輝度の上昇(Increased echogenicity)や肝臓辺縁の尖鋭化(Sharpened liver edges)が認められる症例もありますが、急性肝炎では形態的異常を示さない場合も多いことが知られています。

タイラー病には有効な治療法が無いため、肝機能の補助(Hepatic function support)と肝性脳症による異常行動の制御(Controlling abnormal behavior)を指針とします。飼料管理法(Dietary management)としては、低蛋白および高炭水化物の給餌(Low protein and high carbohydrate diet)と、ネオマイシン、ラクツロース、ミネラルオイル等の投与による消化管でのアンモニア生成や吸収の減少(Decreased ammonia production and absorption)が推奨されています。また、分岐鎖アミノ酸(Branched-chain amino acid)を多く含む飼料の給餌や、継続性のブドウ糖および電解質溶液の静脈内投与(Continuous intravenous administration of dextrose and electrolyte solution)によって、肝性脳症の症状の改善が期待できることが示されています。過敏症反応の関与を考慮してのステロイド投与は、病因論が確立されていないため賛否両論(Controversy)があります。

タイラー病は一般的に予後不良(Poor prognosis)を呈しますが、一週間以上生存した症例、および、経時的な血液検査によってSDH活性の減少が認められた場合には、有意に予後が良いことが報告されています(GGTの活性は、病状が回復した後であっても、数週間以上にわたって高値を示すことが多い)。病因論が不明であるため、タイラー病の特異的な予防法は提唱されていませんが、破傷風抗毒素の投与では、妊娠牝馬(Pregnant mare)において特にタイラー病発症の危険が高いことが報告されているため、破傷風免疫が欠如していると予測される場合を除いて、ルーチン的な妊娠馬への抗毒素使用は禁忌とされています。

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