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馬の文献:飛節内腫(Dechant et al. 2003)

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「馬の遠位飛節の骨関節炎に対する遠位足根関節固定術のための三穴ドリル法の応用:1990〜1999年の54症例」
Dechant JE, Baxter GM, Southwood LL, Crawford WH, Jackman BR, Stashak TS, Trotter GW, Hendrickson DA. Use of a three-drill-tract technique for arthrodesis of the distal tarsal joints in horses with distal tarsal osteoarthritis: 54 cases (1990-1999). J Am Vet Med Assoc. 2003 Dec 15;223(12):1800-5.

この研究では、馬の飛節内腫に対する外科的療法の治療効果を評価するため、1990〜1999年にかけて、米国の三箇所の獣医病院において、三穴ドリル穿孔を介した遠位足根関節固定術が実施された54頭の馬における、医療記録の回顧的解析が行なわれました。

結果としては、遠位足根関節の外科的固定術が実施された症例のうち、健常歩様に回復したのは59%(32/54頭)に及んでおり、歩様が改善したものの健常歩様には至らなかったのが11%(6/54頭)、歩様が改善しなかったのが30%(16/54頭)となっていました。このため、馬の飛節内腫に対しては、三穴ドリル穿孔による関節固定術によって、中程度の予後が期待され、ある程度の馬が、健常歩様への回復および意図した用途での運動復帰を果たすことが示唆されました。なお、この研究の術式では、関節腔の中心部を通るように、正確にドリル穿孔することが、治療成功の鍵になると考察されており、術中X線や透視装置を駆使して、穿孔の位置や角度を厳密に確認することが推奨されています。

この研究では、遠位足根関節の固定術のために、3.2mmまたは4.5mmのドリルビットを用いて、扇状になるように三方向へドリル穿孔が施されました。この術式では、関節面全体に占める軟骨除去のエリアはかなり狭かったと推測されており、術後に健常歩様に回復した馬の中にも、骨癒合は完全には達成されておらず、X線で関節腔が視認できるケースが認められました。このような事象の説明としては、たとえ部分的な骨癒合であっても、足根骨間の安定性が得られれば、疼痛や跛行の改善が見られるという考察がなされています。

この研究では、術前に飛節の関節注射療法を受けていた症例では、治療成功率が35%(6/17頭)に留まったのに対して、術前に関節注射されていなかった症例では、治療成功率は88%(15/17頭)に達していました。この理由としては、術前に関節注射されていた症例のほうが、より進行した骨関節炎が起こっていたり、飛節以外の疾患も併発していて、関節固定術によっても疼痛性病態が完治しなかったことが挙げられています。このため、馬の飛節内腫に対して、関節注射療法が有効な治療法であることに疑いは無いものの、もし、関節注射が効かなくなったので外科的な関節固定術に踏み切ったというケースでは、手術が奏功しない可能性があることを、事前にクライアントに説明する必要があると提唱されています。

この研究では、術前のX線検査にて、骨関節炎の所見が重度であった症例では、治療成功率が35%(8/23頭)に過ぎなかったのに対して、軽度または中程度であった症例では、治療成功率は67%(35/52頭)に達していました(統計的な有意差はギリギリ無し)。このため、術前の画像診断において、重度の関節炎が認められた馬では、関節固定術の効能が限定的になる可能性があると推測されました。

この研究では、術前のX線検査にて、近位足根関節の疾患が認められた3症例では、術後も跛行が持続して、予後は芳しくなかったことが報告されています。解剖学的には、馬の飛節にある四つの関節腔のうち、近位足根骨間関節と下腿足根関節は連絡しており、骨関節炎の病態が前者から後者へと波及することが知られています。このため、術前の時点で、既に近位足根関節に関節炎を患っていた症例では、外科的な関節固定術は推奨されないと結論付けられています。

なお、この研究では、患馬の年齢や性別、術前の跛行グレード、病態が片側か両側かの違い、ドリル穴の大きさ等は、治療成功率と有意には相関していませんでした。また、一部の症例では、骨癒合を促進させるため、ドリル穿孔箇所への海綿骨移植が試みられていましたが、サンプル数が少ないため、移植の効能は正確に評価できなかったと考察されています。

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