馬の胃潰瘍にはアルファルファ給餌
馬の飼養管理 - 2023年07月05日 (水)

胃潰瘍の罹患馬に対しては、アルファルファを給餌することにメリットがあると言われています。米国のテキサス農工大学の研究によれば、バミューダ乾草が給餌された馬に比べて、アルファルファ乾草が給餌された馬では、胃潰瘍の重篤度スコアが有意に低かったことが分かりました。
参考資料:
Clair Thunes, PhD. Alfalfa for Ulcer Prevention in Horses: When fed correctly, alfalfa might help prevent gastric ulcer development. The Horse, Article, Commentary, Digestive Tract Problems, Equine Nutrition, Ulcers: Mar 20, 2023.
アルファルファ給餌による胃潰瘍への効能
アルファルファの給餌により胃潰瘍の有病率や重篤度が抑えられる要因としては、蛋白質とカルシウムの含有量が高く、それらが胃内で緩衝材として作用して、pH値を上昇させることが挙げられています。また、アルファルファに豊富に含まれる構造炭水化物(リグニン)も、pH値の低下を抑制するのに役立つと言われています。
他の研究を見ても、ブローム乾草と穀類を給餌された馬に比較して、アルファルファ乾草と穀類を給餌された馬では、胃内pH値が有意に高いことが示され、胃潰瘍病変の数や重篤度も減少していました。一般的に、胃内容物のpH値が上がることは、扁平上皮部および既存の胃潰瘍罹患部に対する、胃酸からの刺激作用を抑えることが知られています。

アルファルファの給餌方法
勿論、全ての牧場がアルファルファ乾草を植えている訳ではなく、他の乾草よりもカロリー量が高いことにも留意する必要があります。また、馬によっては、アルファルファに含まれる粗蛋白質やカルシウムの多さも、悪影響も及ぼすことも考えられます。
研究者によると、500〜590kgの馬に対しては、一日あたり約0.45kgのアルファルファを与えることが推奨されています。特に、穀類を多給されている馬では、高濃度の非構造炭水化物により胃内pH値が下がってしまうため、アルファルファ給餌が有益であると言われています。
アルファルファを植えていない牧場では、ペレットまたは細断乾草として給餌するのが容易だと言えます。これらのアルファルファ飼料は、他の乾草や濃厚飼料に混ぜたり、運動前に少量だけ与えることも可能です。

アルファルファ給餌に関連する諸要因
一方で、茎の割合が多いアルファルファは、胃粘膜への刺激が大きくなることもあり得ます。子馬の幽門部潰瘍に関する研究では、アルファルファのペレットを与えた場合よりも、細断したアルファルファを与えた方が、胃潰瘍病変の重篤度スコアが有意に高かったことが報告されています。
この子馬の研究では、粗飼料の約四割をアルファルファ(ペレット又は細断)に置き換えたことが強調されています。しかし、過去の知見では、成馬の腺胃部潰瘍に関する研究において、粗飼料すべてをアルファルファ(細断)および通常の乾草で給餌した場合には、両群のあいだで、胃潰瘍病変の重篤度スコアには有意差が無かったことも報告されています。
このように、細断したアルファルファ乾草による胃粘膜刺激の可能性については、有益な知見であると言えますが、通常この飼料は、茎の長い他の乾草に少量だけ加える形で給餌されることもあるため、その条件を反映した実験は行なわれていない点には注意する必要があります。また、細断されたアルファルファでは、全ての細断片が同じ形状ではないため、短くても、鋭くて胃壁を刺激しやすい事もあると推測されています。

更に、通常の茎の長い乾草や、長めの細断乾草では、ペレット等に比べて、胃内容物の水面に、より厚いマット状の層を形成して、胃液が飛び散って(特に激しい運動中に)、扁平上皮部に胃酸が接触する度合いを抑えるという仮説がなされています。加えて、茎の長い乾草では、嚥下する前に、より長時間の咀嚼が必要になるため、唾液の分泌量が多くなり、嚥下される唾液の量も増えることで、胃内の緩衝作用が付与される可能性も示唆されています。
胃潰瘍へのアルファルファ給餌の方針
一般的に、アルファルファの摂取が有益だと考えられる馬に対しても、その給餌量は、粗飼料全体の25〜30%までにしておくことで、蛋白質やカルシウムの過剰摂取を避けることが推奨されています。もし、生草のアルファルファが手に入らない牧場では、ペレット又は細断乾草を購入することがお勧めです。
なお、上記の研究結果に基づいて、幽門部の胃潰瘍が診断されている馬においては、細断したアルファルファの給餌は推奨されていません。また、アルファルファ給餌そのものが選択肢ではないケースでは、他のサプリを検討することも提案されており、例えば、海水から抽出されたカルシウム添加剤では、胃潰瘍に有効な緩衝材になり得るという知見も示されています。

アルファルファ給餌において重要なこと
原則として、給餌する粗飼料のタイプは、馬の胃潰瘍を制御する方策の一つに過ぎない、という事を認識するべきだと言えます。このため、他の胃潰瘍の対策も積極的に実行するのが大切であり、例えば、ストレス軽減(過剰に強度な運動、孤独な飼養環境、ホースマンとの良くない交流)、飼養管理の改善(給餌回数を増やす、スローフィーダーを使う)、牧草地への放牧時間を増やす、などが含まれます。
そして、馬の管理に関する全ての要素を審査して、可能な限り管理方針の改善を実施することで、胃潰瘍の治癒および再発予防を達成するチャンスを最大化できると言えるでしょう。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
・馬の腺胃部での胃潰瘍と飼料の関係性
・オメプラゾールの投与中止の方針
・馬の胃潰瘍に対する筋注薬の作用
・唾液検査による馬の胃潰瘍の診断
・馬の胃潰瘍サプリは毎日あげても大丈夫?
・胃潰瘍の予防には運動前の軽食
・育成期サラブレッドの胃潰瘍
・馬の病気:胃潰瘍
- 関連記事
-
-
乾草を先に与えて疝痛予防
-
馬の胃潰瘍にはアルファルファ給餌
-
放牧は腱や靭帯を強くする?
-
馬のお腹に溜まった砂を出そう
-
失明した馬の管理法
-