馬の文献:飛節内腫(Dowling et al. 2004)
文献 - 2023年07月07日 (金)

「104頭の馬に実施されたモノヨード酢酸塩ナトリウムを用いた遠位飛節の関節固定術」
Dowling BA, Dart AJ, Matthews SM. Chemical arthrodesis of the distal tarsal joints using sodium monoiodoacetate in 104 horses. Aust Vet J. 2004 Jan-Feb;82(1-2):38-42.
この研究では、馬の飛節内腫に対する内科的療法の治療効果を評価するため、遠位飛節の変性関節疾患を発症した104頭の症例馬に対して、モノヨード酢酸塩ナトリウム(MIA: sodium monoiodoacetate)の関節内注射を用いた関節固定術が実施され、医療記録の回顧的解析と長期的予後の評価が行なわれました。
化学的に、MIAは、アデノシン三リン酸の細胞内濃度の上昇させることで、解糖系を抑制して細胞死を引き起こします。このMIAを、関節内注射することで、軟骨フィブリン化、軟骨細胞死、プロテオグリカン枯渇を誘導して、濃度依存性の軟骨変性を引き起こします。その結果、組織学的な関節強直が期待されるものの、健常歩様に回復できる症例の割合は低く(三割以下)、関節固定の完了までには、12〜24ヶ月を要すると報告されています。
結果としては、長期的な経過追跡ができた馬のうち、MIA注射による関節固定術のあと、健常歩様まで回復していた馬の割合は、治療後の三ヶ月目では0%(0/57頭)、六ヶ月目では25%(14/55頭)、一年目では82%(41/50頭)、二年目では85%(29/34頭)となっていました。しかし、X線画像上で関節癒合が達成されていた馬の割合は、治療後の三ヶ月目では9%(5/55頭)、六ヶ月目では63%(24/38頭)、一年目では87%(26/30頭)、二年目では100%(18/18頭)となっていました。
この研究では、MIA注射による関節固定術のあと、重篤な疼痛が見られた馬は6.7%であり、また、追加の治療を要するほどの深刻な合併症を起こした馬も3.8%見られました。このような疼痛が起こった要因としては、MIAの刺激作用が滑膜や神経(底側中足神経)に及んだためと推測されています。通常、MIAによる軟部組織の刺激は限定的だと考えられていますが、局所での薬剤濃度が高ければ、軟部組織の生存能に影響しうると考察されています。事実、疼痛症状とMIS注射量が正の相関を示す徴候が認められており、注射針の太さや、針を穿刺する回数に留意することで、MIAの関節外への漏出量を減らして、疼痛の発現を抑えられると推測されています。
この研究では、MIA注射療法に先立って、飛節の関節造影が実施されており、遠位足根骨間関節と足根中足関節が連絡していた馬は11.5%で、近位と遠位の足根骨間関節が連絡していた馬は0%でした。一方、過去の知見では、遠位飛節へのMIA注射のあと、近位足根骨間関節の変性関節疾患を続発した馬が10%以上に上ったという報告もあります。このため、飛節内腫の発症馬では、関節液増量(関節内圧の上昇)や滑膜変性などに起因して、通常は分離されている筈の近位と遠位の足根骨間関節のあいだで、関節液の連絡が起きていて、その結果、注射したMIAが近位側の関節腔に迷入して、医原性の関節病態を引き起こした可能性があると推測されています。
Photo courtesy of Aust Vet J. 2004 Jan-Feb;82(1-2):38-42.
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