経鼻チューブの太さと胃液逆流の関係性
話題 - 2023年07月10日 (月)

一般的に、馬は、嘔吐が殆どできない動物であるため、重度な胃拡張を起こすと、胃破裂を続発して予後不良になることが知られています。このため、空腸絞扼や近位小腸炎などの症例では、小腸から胃へと逆流してくる消化液を持続的に排出させるため、経鼻チューブを留置する必要があります。しかし、経鼻チューブが留置されていると、胃液が、噴門→食道→喉頭へと逆流して、それを気管内に誤嚥することで、下部気道炎を起こす危険性があります。
この場合、経鼻チューブが細いほど、逆流量も少なくなり、誤嚥性肺炎のリスクを抑えられると予測されますが、それは証明されてはいません。また、細いチューブほど、胃液は排出されにくくなる、というジレンマも出てきます。このため、上記の研究では、11頭の研究馬を用いて、経鼻チューブのサイズと胃食道逆流の度合い(シンチグラフィーで計測)の関係性が調査されました。
参考文献:
Dotson RG, Robinson RG, Pingleton SK. Gastroesophageal reflux with nasogastric tubes. Effect of nasogastric tube size. Am J Respir Crit Care Med. 1994 Jun;149(6):1659-62.

結果としては、経鼻チューブのサイズとして、細いもの(8F)と太いもの(14F)を用いて、腹圧増加による胃液逆流の度合いを計測して、逆流指数を算出したところ、細いチューブ(1.67±0.28%)と太いチューブ(1.88±0.35%)のあいだで、統計的な有意差は無いことが分かりました。このため、胃拡張の発症馬に経鼻チューブを留置する際には、チューブの太さは胃液逆流とは相関しないため、より効率的に胃内容を排出する目的で、太めのチューブを用いても、誤嚥性肺炎のリスクは増えないと考察されています。
この研究の限界点としては、健常馬を使った実験であったため、胃への消化液逆流や腹圧が重度に増加したときには、より多量の胃食道逆流が起こり、太いチューブを用いることによる弊害が、より明瞭に示される可能性があると推測されます。また、実際の疝痛馬では、深刻な脱水により、食道分節運動が低下して、喉頭まで逆流してくる胃液の量が増える可能性もあると考えられます。

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