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麻酔中の馬での抗生物質の動態

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一般的に、馬は細菌感染に弱い動物であることが知られており、開腹術や骨折の内固定など、侵襲性の高い外科手術においては、抗生物質の全身投与による感染予防が重要となります。ただ、全身麻酔下にある手術中の馬における、抗生物質の体内動態は明らかにされていません。

それを評価するため、下記の研究では、六頭の健常馬を用いて、Kペニシリン(22,000IU/kg)とゲンタマイシン(6.6mg/kg)の静脈内投与を行なった後に全身麻酔をかけて、30分後および6時間後における、血液と関節液の抗生物質濃度の測定、および、無麻酔の馬との比較が行なわれました。

参考文献:
Wilson KE, Bogers SH, Council-Troche RM, Davis JL. Potassium penicillin and gentamicin pharmacokinetics in healthy conscious and anesthetized horses. Vet Surg. 2023 Jan;52(1):87-97.

結果としては、Kペニシリンとゲンタマイシンの両方において、麻酔中のほうが無麻酔の状態に比較して、血液中の薬剤濃度が高く、血中濃度の半減期が長く、血中からのクリアランスが緩やかであることが示されました(下表)。また、Kペニシリンの血中濃度が、最小発育阻止濃度(MIC)を超えて維持されたのは、麻酔中では332分間であり、無麻酔の状態(199分間)よりも長くなっていました。

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一方で、関節液中のKペニシリン濃度は、無麻酔の状態(7.0μg/mL)に比べて、麻酔中では顕著に低い(0.93μg/mL)ことが分かりました。また、関節液中のゲンタマイシン濃度を見ても、無麻酔の状態(5.3μg/mL)と比較して、麻酔中では顕著に低い(0.79μg/mL)ことも示されています(何れも30分後の計測値)。そして、6時間後での関節液中のゲンタマイシン濃度も、無麻酔の状態(3.4μg/mL)よりも麻酔中のほうが低い(1.82μg/mL)というデータが示されました。

このため、全身麻酔下の馬に対する抗生物質の静脈内投与では、無麻酔時よりも血液循環量が低下するため、より高濃度の抗生物質が、より長時間にわたって血液中に維持されるため、全身性の細菌感染の制御に寄与することが示唆されました。その一方で、全身血流から関節液への抗生物質の移行量は、無麻酔時よりも低くなっており、この影響は、関節内だけでなく、他の軟部組織にも起こっていると推測されています。

以上の結果から、馬の外科手術に際しては、抗生物質を全身投与していても、末梢組織には十分に行き届いていない可能性があるため、厳密な無菌手技を徹底すると共に、縫合前に関節内や腹腔内を充分に洗浄することで、細菌感染の予防に努めることの重要性が再確認されるデータが示されたと言えます。また、全身麻酔下では、抗生物質の血中濃度が無麻酔時よりも高くなるため、薬剤の副作用(アミノグリコシド系抗菌剤による腎毒性など)についても、慎重にモニタリングする必要があると考えられました。

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また、馬の手術で汎用されるKペニシリンとゲンタマイシンのうち(特に米国において)、前者は一日4回の投与を要するため、術前投与の6時間後に、Kペニシリンを再投与することが一般的です。しかし、今回の研究では、全身麻酔による血中クリアランスの低下によって、初回投与の6時間後にも、MIC以上の血中濃度が維持されていたため、術後のKペニシリン投与は不要であるという考察がなされています。

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