ブランマッシュの利点と欠点
馬の飼養管理 - 2023年07月19日 (水)

ホースマンの中には、温かいブランマッシュを準備して、愛馬に与えるのを楽しみにしている方もいらっしゃるかもしれません。また、競技会に参加して疲れていたり、体調を崩した馬に対しても、お粥状に調理したブランマッシュが給餌されることもあります。ここでは、ブランマッシュを馬に給餌することの利点と欠点を解説した知見を紹介します。
参考資料:
Clair Thunes, PhD. Risks Associated With Feeding Horses Traditional Bran Mashes. The Horse, Digestive System, Feeding Old Horses, Grains, Hay Nutrition: Feb 15th, 2023.
冬場の寒い日や、競技会で馬が疲れている日には、温かいブランマッシュを給餌する飼養管理者も多いのかもしれません。しかし、近年では、以前に思われていたのと異なり、ブランマッシュは利点ばかりではないことが分かってきています。
飼料内容を変えることのデメリット
一般的に、馬の飼料を変更するときには、徐々に変化を加えていくのが望ましいことが知られています。その理由は、馬の腸内細菌や腸内酵素は、給餌されているエサに合致したものになっており、飼料内容が変更されると、腸内細菌の組成なども、それに合わせて順応していく必要があるためです。もし、腸内環境に適合していないエサを摂食すると、単に消化吸収が不完全になるだけでなく、消化器の混乱(疝痛、下痢、鼓腸症)を起こしてしまう事もあります。
古典的には、馬に週一回ブランマッシュを与えることで、それが潤滑剤となってくれるという考えもありました。しかし、馬の栄養学の知見が深化するに連れて、このセオリーが必ずしも真実でないことが判明してきており、むしろ、馬の飼料内容は、出来る限り一定に保つべきであるという原則に外れてしまう事になります。

フスマ給餌による栄養学的な不均衡
通常、馬にブランマッシュを給餌するときには、フスマを混ぜる量を増やして、熱湯に浸して、お粥状に調理することが一般的です。しかし、フスマという濃厚飼料には、多量のリン(P)が含有されており、カルシウムよりもその量が多いという特徴があります。実際、フスマのリン含有量は約1%であるのに対して、カルシウム含有量は0.15%に過ぎないことが知られています。
このため、馬にフスマを多給すると、リンとカルシウムの正常なバランスが崩れて、二次的な上皮小体機能亢進症を引き起こすことがあります。この疾患は、古典的には、巨頭症またはフスマ病とも呼ばれています。勿論、週に一回程度の頻度では、フスマ給餌に起因する発病はしにくいと予測されますが、長期的な悪影響を考慮すると、リンとカルシウムの不均衡は、出来るだけ避けることが推奨されています。

ブランマッシュを給餌することのメリット
勿論、ブランマッシュにも飼料としての利点があり、その一つとして、選り好みをする個体(Picky eater)に対しても、食欲を向上させることが挙げられます。馬によっては、強運動で疲労したり、熱発などで具合が悪い日には、何も食べようとしないケースがあります。そのような馬に対しては、口当たりが温かく、甘みがあり、あまり咀嚼しなくて済むブランマッシュであれば、嗜好性が維持されて、完食してくれる事もあります。
もう一つの利点としては、ブランマッシュには塩を多めに入れて調理されることが多いため、それを摂食することで、充分量の塩分が摂取されることが挙げられます。その結果、渇水欲が保たれ、自発的に飲水してくれるため、馬体が脱水するのを避けられ、便秘疝の予防にも繋がると考えられます。

より良いブランマッシュの与え方
以上の事項を鑑みると、ブランマッシュの与え方にも工夫の余地があることが分かります。もし、普段から、配合飼料としてのペレットを与えている馬においては、そのペレットに熱湯を加えてお粥状にするという方法があります。こうすることで、飼料内容を変更することなく、温かくて軟らかいという、ブランマッシュの利点を付加することが可能となります。
また、普段から、乾草などの粗飼料のみ給餌している馬においては、乾草ペレットやサイレージペレットを購入して、それに熱湯を加えて、ブランマッシュ状に調理する方法もあります。そして、疲労や病気で食欲が落ちた馬に対しては、ブランマッシュではなく、人参やリンゴを細断して混ぜるなど、他の手法で嗜好性を上げるのも一案だと言えます。

当然ですが、ヒトと馬では、消化器の機能が異なります。ヒトが風邪を引いた時に、白米よりもお粥を食することは有益ですが、それと同じ感覚で、馬にブランマッシュを給餌することは、必ずしも馬体への利点ばかりではない、という認識が大切なのかもしれません。
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