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馬の文献:飛節内腫(Zubrod et al. 2005)

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「馬の遠位足根骨間関節および足根中足関節の固定術のための三手法の比較」
Zubrod CJ, Schneider RK, Hague BA, Ragle CA, Gavin PR, Kawcak CE. Comparison of three methods for arthrodesis of the distal intertarsal and tarsometatarsal joints in horses. Vet Surg. 2005 Jul-Aug;34(4):372-82.

この研究論文では、馬の飛節内腫の外科的治療の手法を確立させるため、15頭の実験馬を用いて、遠位足根骨間関節および足根中足関節に対して、ドリル穿孔、レーザー焼烙、モノヨード酢酸塩ナトリウム(MIA: sodium monoiodoacetate)の関節内注射を行ない、その後の12ヶ月にわたる跛行検査やX線検査、および、組織学的検査が実施されました。

結果としては、治療後の6ヶ月目においては、レーザー焼烙の方が、MIA注射よりも跛行が軽かった馬は、67%(4/6頭)に及んでいました(片方の飛節にレーザー焼烙して、対側肢の飛節にMIA注射をした場合)。また、6ヶ月目の組織学的検査において、骨架橋形成が見られた関節は、レーザー焼烙では17%(2/12関節)に留まったのに対して、MIA注射では92%(11/12関節)に達していました。そして、この時点で、関節腔に占める架橋されたエリアの割合は、レーザー焼烙(30.6%)よりもMIA注射(51.4%)のほうが有意に高くなっていました。

この研究では、治療後の12ヶ月目においては、レーザー焼烙の方が、ドリル穿孔よりも跛行が軽かった馬は、83%(5/6頭)に及んでいました(片方の飛節にレーザー焼烙して、対側肢の飛節にドリル穿孔をした場合)。また、12ヶ月目の組織学的検査において、骨架橋形成が見られた関節は、レーザー焼烙では42%(5/12関節)であったのに対して、ドリル穿孔では75%(9/12関節)に及んでいました。そして、この時点で、関節腔に占める架橋されたエリアの割合は、レーザー焼烙(28.5%)よりもドリル穿孔(46.2%)のほうが有意に高くなっていました。なお、上写真は、ドリル穿孔の12ヶ月後のX線画像で、関節の背内側面の骨増生を示しています。

このため、馬の飛節内腫に対しては、ドリル穿孔やMIA注射によって、より堅固な関節強直が、より早期に達成されることが示されました。しかし、健康な実験馬を用いた今回の検証では、術後の疼痛や跛行の少なさという面では、レーザー焼烙のほうが優れていたことが分かりました。このため、実際の臨床症例においても、関節面の骨架橋や、足根骨同士の癒合が起こらなくても、健常な歩様の回復という点では、レーザー焼烙療法が有益である可能性が示唆されています。

この研究の限界点としては、健康な実験馬を使った検証であったため、実際の飛節内腫の罹患関節における効能とは完全には相関していないことが挙げられています。一方で、同一馬の左右後肢に異なった処置を施しているため、その二つの処置の影響を直接的に比較できた(少なくとも荷重痛や跛行という側面では)のはメリットであると言えます。ただ、そのような実験デザインであったため、ドリル穿孔とMIA注射の直接的な比較は出来ていませんでした。

この研究では、処置後の長期経過を見たときに、ドリル穿孔よりもレーザー焼烙のほうが跛行が軽度であった要因としては、関節包や滑膜、軟骨下骨などの神経末端を、レーザーで熱性変性させたためと推測されており、実際の症例においても、施術直後から疼痛が緩和できるという利点があると考察されています。また、追加の実験馬数頭に対して、左右両後肢にレーザー焼烙処置を行なった結果、術後の疼痛は最低限であったことも報告されています。

一般的に、馬の飛節では、近位の二つの関節における滑走動作によって可動性を得ながら、遠位の二つの関節が、圧迫、捻転、剪断などの歪みを吸収しています。このため、遠位の関節を外科的に癒合させてしまうと、近位の関節(特に近位足根骨間関節)に歪みが集中して関節炎を起こした結果、完全な健常歩様まで回復できない危険性が懸念されています。言い換えると、ドリル穿孔などで、骨癒合や関節固定を目指すよりも、レーザー焼烙などで、神経変性と疼痛緩和を施すほうが、長期的な関節機能の維持に供する可能性もあると考えられます。

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