馬の文献:飛節内腫(Shoemaker et al. 2006)
文献 - 2023年07月28日 (金)

「健常馬の足根中足関節へのエチルアルコール注射による関節固定術」
Shoemaker RW, Allen AL, Richardson CE, Wilson DG. Use of intra-articular administration of ethyl alcohol for arthrodesis of the tarsometatarsal joint in healthy horses. Am J Vet Res. 2006 May;67(5):850-7.
この研究論文では、馬の飛節内腫に対する内科的治療法の効能を評価するため、八頭の健常な実験馬を用いて、70%または95%のエチルアルコールを足根中足関節に注射した後、12ヶ月にわたる歩様検査とX線検査、および、その後の組織学的検査が実施されました。
結果としては、注射後4ヶ月目のX線検査で関節固定が認められたのは50%の関節(8/16関節)であり、注射後12ヶ月目の組織学的検査で関節固定が確認されたのは94%の関節(15/16関節)に及んでいました。また、期間中の歩様検査では、全ての馬が最小限〜無跛行であったことも報告されています。このため、馬の飛節内腫に対しては、エチルアルコールの関節内投与によって、深刻な疼痛を伴うことなく関節固定が達成されて、非外科的な治療法として有用である可能性が示唆されました。
一般的に、馬の飛節内腫では、関節固定術によって足根骨同士が癒合することで、疼痛の緩和と競技能力の回復が達成されると考えられており、その術式として、関節腔のドリル穿孔、モノヨード酢酸塩ナトリウムの関節内注射、レーザー焼烙などが試みられています。一方、ヒト医療では、難治性のガン患者での疼痛管理法として、エチルアルコールによる感覚神経ブロック(神経融解処置)が実施されてきており、効能発現の機序としては、アルコール成分による蛋白変性と細胞原形質脱水が挙げられています。
この研究では、関節注射されたエチルアルコールの濃度を比較すると、95%よりも70%の方が、4ヶ月目のX線における関節癒合が優れていたことが分かりました。しかし、12ヶ月目での組織学的検査における関節固定では、両濃度のあいだで差異は認められませんでした。この理由は、明確には結論付けられていませんでしたが、X線画像上での関節癒合の評価は、撮影手技によって多様性が大きく、実際の関節内病態を正確には反映していなかった可能性が示唆されています。
この研究では、足根中足関節への注射に際して、造影X線検査は併用されておらず、飛節にある四つの関節腔の連絡性については評価されていませんでした。一般的に、馬の飛節では、近位及び遠位足根骨間関節が連絡していることは稀だと言われていますが、実際の飛節内腫の罹患馬では、関節内圧の上昇や滑膜変性に起因して、近位側の関節腔へと注射液が迷入するリスクが懸念されます。このため、臨床症例への適応に際しては、エチルアルコールの注射前には、造影X線によって、近位関節への薬剤迷入が生じないことを確認するのが望ましいと考えられます。
この研究では、足根中足関節へのエチルアルコール注射後、関節癒合が完了するまでに半年から一年間を要する馬の割合もいることが示唆されました。しかし、飛節内腫の罹患馬では、施術の時点で、既に関節軟骨および軟骨下骨の変性が起こっているケースも多いため、注射後の組織変性が強く生じて、より早期に足根骨間の癒合が期待されると考察されています。また、注射されたエチルアルコールによって、滑膜や関節包に分布する神経組織が変性することで、跛行や屈曲痛などの緩和は、より早いタイミングで起こる可能性も示唆されています。これらは、実際の飛節内腫の罹患馬への治療を通して、より詳細に評価する必要があると考えられました。
Photo courtesy of Am J Vet Res. 2006 May;67(5):850-7.
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