カナダでの馬の流産の発生状況
話題 - 2023年07月29日 (土)

馬の流産は、繁殖及び生産の産業において、非常に大きな経済的損失を生み出すと同時に、母馬の健康と福祉にも多大な悪影響を及ぼします。ここでは、カナダにおける馬の流産の発生要因を調査した知見を紹介します。
参考文献:
Ricard RM, St-Jean G, Duizer G, Atwal H, Wobeser BK. A 13-year retrospective study of equine abortions in Canada. Can Vet J. 2022 Jul;63(7):715-721.
この研究では、カナダの複数の獣医大学病院において、2014〜2020年にかけて診察された、901件の馬の流産における病理組織学的検査の報告内容が調査・解析されました。その結果、流産の原因が特定されなかった症例は51.8%に上っていましたが、原因が特定された症例を見ると、非感染性の原因のうちでは、胎児や胎盤に起因するものが20.1%と最も多く、これには、臍帯捻転(10.2%)や胎盤機能不全(5.8%)などが含まれました。一方で、感染性の原因としては、馬ヘルペスウイルスによるものが10.2%と最多で、次いで、細菌性胎盤炎(7.0%)となっていました。
この研究では、妊娠の初期(2〜5ヶ月)、中期(6〜8ヶ月)、後期(8ヶ月以降)に分けて、流産の原因が調査されました。その結果、非感染性の原因のうち、胎児や胎盤に起因するものの割合は、妊娠の初期・中期・後期の順で、31%→37%→28%となっており、概ね同程度の割合を占めていました(原因不明の症例が五〜六割を占めるため)。一方、感染性の原因のうち、細菌感染に起因する流産の割合は、妊娠の初期・中期・後期の順で、 73%→57%→37%と漸減していたのに対して、ウイルス感染に起因する流産の割合は、0%→21%→58%と漸増していく傾向が認められました(その他は真菌感染に起因するものや病原体不明)。

この研究では、約半数の将来において、流産の原因が特定できないという検査結果となっていました。この際には、胎児の全身が剖検された場合には、流産原因を特定できる確率が二倍以上も高くなる(オッズ比=2.31)ことが分かりました。更に、胎児と一緒に胎盤も剖検された場合には、流産原因を特定できる確率が二倍以上も高くなる(オッズ比=2.24)というデータも示されています。
以上の結果から、カナダでの馬の流産は、隣国の米国と異なり、非感染性の原因が多いという結果が示されましたが、その要因は明確には考察されていませんでした。一方で、妊娠後期においては、妊娠牝馬の隔離飼養や、馬鼻肺炎ワクチンの接種など、ウイルス感染に起因する流産の予防措置が有益であることが再確認されました。また、流産の発生時には、胎児の全身プラス胎盤組織も剖検に出すことで、原因特定に繋がりやすいことが示唆されています。

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