馬の病気：膝蓋骨脱臼
馬の運動器病 - 2013年09月08日 (日)
膝蓋骨脱臼（Patellar luxation）について。
馬における膝蓋骨の脱臼は、新生児またはミニチュアホースに好発し、殆どの症例で外方脱臼（Lateral luxation）を呈しますが、ときに内方脱臼（Medial luxation）、極めて稀に遠位方脱臼（Distal luxation）を起こす病態も報告されています。馬の膝蓋骨脱臼では、遺伝性に外側滑車の形成不全（Hypoplasia of trochlear ridge）を生じることが病因（Etiology）であると考えられていますが、重度の離断性骨軟骨炎（Osteochondritis dissecans: OSD）に続発する外側滑車の欠損性発育（Defective development）も発症素因（Predisposing factor）となることが示唆されています。
膝蓋骨脱臼を生じた膝関節では、四頭筋郡（Quadriceps muscle group）が伸筋機能（Extensor function）を失い屈筋として作用するため、膝関節の伸展不全を起こして、患肢への負重が出来なくなります。このため、両側性（Bilateral）に膝蓋骨脱臼を発症した症例では、特徴的なしゃがみ込む姿勢（Crouched position）を呈するようになります。膝関節の触診では、変位した膝蓋骨（Displaced patella）、および、関節包の膨満（Joint capsule distension）が触知されることもあります。膝蓋骨脱臼の診断では、視診と触診にあわせて、レントゲン検査（Radiography）による確定診断（Definitive diagnosis）と、外側滑車形成不全の重篤度（Severity）、膝関節のOCDおよび変性関節疾患（Degenerative joint disease）の併発を確かめる事が重要です。
膝蓋骨脱臼の治療では、大腿二頭筋の付着部（Biceps femoris insertion）、外側大腿膝蓋靭帯（Lateral femoropatellar ligament）、外側膝蓋靭帯の起始部（Lateral patellar ligament origin）の三つの支持組織を切開することで膝蓋骨の外側遊離（Lateral release of patella）を行って、膝蓋骨を正常位置に押し戻し、更に内側関節包（Medial joint capsule）を瓦状に縫合（Imbrication suturing）した後、この関節包に縫工筋（Sartorius muscle）および膝蓋周囲帯膜（Parapatellar fascia）を縫合・結合させることで、膝関節の内側部の緊張を促して、再脱臼を予防する療法が有効です。
また、重篤な外側滑車の形成不全に起因する症例では、滑車溝形成術（Trochlear sulcoplasty）によって膝蓋骨を保持するのに充分な深さの溝を形成する外科療法が必要で、U字型軟骨フラップ（U-shaped cartilage flap）および楔型骨切術（Wedge osteotomy）の二種類の術式が用いられています。また、膝蓋靭帯不正（Patellar ligament malalignment）を併発した症例では、脛骨結節転位術（Tibial tuberosity transposition）を要する場合もあります。
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