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高齢馬での眼科疾患の発症傾向

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近年、馬の寿命が延びて、高齢馬の飼養頭数が増えるに連れて、高齢期における病気の治療や健康管理が重要になってきています。ここでは、高齢馬の眼科疾患の発生状況を調査した知見を紹介します。この研究では、英国のエジンバーグ大学において、15〜33歳の高齢馬50頭に対する眼科検査が実施され、検査結果の解析が行なわれました。

参考文献:
Chalder R, Housby-Skeggs N, Clark C, Pollard D, Hartley C, Blacklock B. Ocular findings in a population of geriatric equids in the United Kingdom. Equine Vet J. 2023 Apr 18. doi: 10.1111/evj.13941. Online ahead of print.

結果としては、眼科検査を受けた高齢馬の中で、視力を失った馬はいなかったものの、眼科的な病変が認められた馬は84%(42/50頭)に及んでいました。また、病変の発症箇所を見ると、前眼房の疾患が74%(37/50頭)と最も多く、次いで、後眼房が44%(22/50頭)、付属組織が8%(4/50頭)となっていました。なお、どの眼科疾患を取っても、左右どちらかの眼に好発する傾向は認められませんでしたが、左右両方の眼が罹患していた眼病は71.4%に及んでおり、片目だけの場合(28.6%)よりも顕著に高い割合となっていました。

下写真の病態:A→角膜浮腫、B→角膜上皮下線維症、C→虹彩顆粒嚢胞、D→虹彩色素沈着過剰症、E→傍中心性白内障、F→後部皮質白内障、G→網膜色素上皮、H→乳頭周囲色素脱失。
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この研究では、前眼房の疾患を患っていた高齢馬のうち、白内障の有病率が52%(26/50頭)で最も高く、このうち、頭側表層の白内障が65%と最も多くなっていました。一方、後眼房の疾患を患っていた高齢馬のうち、眼底疾患の有病率が42%(21/50頭)と最も高く、このうち、老齢性網膜症が42.9%と最も多くなっていました。なお、眼底疾患および老齢性網膜症の有病率は、いずれも年齢が上がるほど高くなる傾向が認められ、発症年齢の中央値は、眼底疾患では26歳、老齢性網膜症では27歳となっていました(全症例の年齢中央値は24歳)。

このため、高齢馬においては、視覚異常の有無に関わらず、眼科疾患の有病率は非常に高いことが分かり、定期的な検査によって、眼病の早期発見と早期治療を行なうことの重要性を再確認させるデータが示されたと考察されています。また、その際には、①両側性疾患の有病率の高さを鑑みて、左右両方の眼を必ず検査すること、②角膜や前眼房だけでなく、後眼房の疾患を患っている馬も多いため、眼底鏡での検査も必ず実施すること、および、③多様なタイプの疾患が存在しうることを念頭に置くことが重要である、という提唱が成されています。なお、今回の調査では、サラブレッドは10%のみで、騸馬の割合が74%と顕著に多くなっていました。

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この研究では、対象年齢の馬たちを網羅的に検査する手法が用いられており、流涙や眼脂、眼瞼腫脹などの、一般的な眼科疾患の症状を呈する馬は含まれていませんでした。このため、角膜疾患の有病率は10%に留まっていました。しかし、見た目上は無症状でも、眼科疾患を有する高齢馬が八割を超えている点は、定期検診の有益性を示唆する意味で特筆すべきと言えそうです。ただ、眼科症状を呈して馬主から検査依頼があったケースにおいては、当然ながら、今回の調査結果とは異なる有病率となり、回帰性ブドウ膜炎や角膜潰瘍など、他の疾患が占める割合も高くなると推測されます。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2023 Apr 18. doi: 10.1111/evj.13941.


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このエントリーのタグ: 眼科 検査

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