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馬の腺胃部での胃潰瘍と飼料の関係性

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一般的に、馬は胃潰瘍を起こしやすい動物であり、その潰瘍病変は、扁平上皮に覆われた無腺胃の箇所(噴門側)に好発することが知られています。一方、近年では、幽門側の腺胃部に起こる胃潰瘍も、半数近い競走馬や乗馬競技馬に発症することが判明しており、プアパフォーマンスや疝痛症状に関連することが分かってきています。

ここでは、競走馬の腺胃部での胃潰瘍と、飼料の関連性を調査した知見を紹介します。この研究では、フランスの四箇所にあるトロッター競走馬のトレセンにおいて、無作為抽出された82頭の競走馬の内視鏡検査と、給餌されている飼料内容の調査が行なわれました。

参考文献:
Julliand S, Buttet M, Hermange T, Hillon P, Julliand V. Effect of diet composition on glandular gastric disease in horses. J Vet Intern Med. 2023 Jun 1. doi: 10.1111/jvim.16747. Online ahead of print.

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結果としては、腺胃部での胃潰瘍のスコアが0〜1の馬に比較して、2〜4の馬では、可溶性糖分の摂取量が有意に多いことが分かりました(59.1g/kg体重 v.s. 77.5g/kg体重)。一方、両群のあいだで、澱粉の摂取量には有意差が無かったことが報告されています。このため、可溶性糖分の給餌が、腺胃部での胃潰瘍の発症素因になる可能性が示唆されました。この要因としては、可溶性糖分の多給によるラクトバシルス菌の増加が挙げられており、この菌が腺胃部の生検で分離されたという報告もあります。

この研究では、調査された82頭の馬を、対照群(飼料変更無し)、または、アルファルファ給餌群(濃厚飼料の半分をアルファルファペレットに置き換える)に分類されました。そして、六週間後に、再度の内視鏡検査が実施したところ、アルファルファ給餌群のほうが、腺胃部胃潰瘍のスコアが2〜4である馬の割合が有意に低かったことが分かりました。更に、スコアが0〜1まで下がることを治療と定義した場合、アルファルファ給餌した方が、腺胃部での胃潰瘍の治癒する確率が47.7倍も高いことが報告されています。

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このため、馬の腺胃部に生じた胃潰瘍に対しては、アルファルファペレットの給餌量を増やす飼養管理によって、潰瘍病変の治癒を促進する効能が期待できることが示唆されました。この理由としては、アルファルファ給餌量の増加により、澱粉の摂取量が相対的に減り、澱粉利用菌の割合も下がることが挙げられています。過去の文献でも、澱粉給餌量を増やすことで(飼料成分中の23%以上)、澱粉利用菌からの短鎖脂肪酸の生成量が、四倍以上も増えるという知見が示されています。更に、馬の腺胃部での潰瘍発症には、pHだけでなく、酪酸等の他の酸成分も関与すると考えられています。

一般的に、アルファルファ飼料では、カルシウム含有量が高いため、胃内での干渉作用も高いことが知られており、胃酸による潰瘍発現を抑制する効能が期待されると考えられています。過去の文献では、体外実験において、アルファルファペレットが混和された胃内容物では、pHを7.0から4.0に下げるために(中性から酸性にするために)、三倍以上もの塩酸が必要になったことが報告されています。加えて、ペレット化したアルファルファでは、アルファルファの乾草に比べて、胃粘膜への物理的な研磨作用が低くなることも、胃潰瘍の治癒促進作用が示された一因であると考察されています。

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このエントリーのタグ: 疝痛 飼料 疾病予防 治療

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