馬の文献:飛節内腫(Carmalt et al. 2012)
文献 - 2023年08月11日 (金)

「馬の遠位足根骨間関節及び足根中足関節の骨関節炎に対するアルコール促進関節強直術」
Carmalt JL, Bell CD, Panizzi L, Wolker RR, Lanovaz JL, Bracamonte JL, Wilson DG. Alcohol-facilitated ankylosis of the distal intertarsal and tarsometatarsal joints in horses with osteoarthritis. J Am Vet Med Assoc. 2012 Jan 15;240(2):199-204.
この症例論文では、馬の飛節内腫に対する非外科的療法の治療効果を評価するため、後肢の遠位足根骨間関節または足根中足関節の炎症に起因して跛行を呈した21頭の症例馬に対して、70%エチルアルコール(3mL)が関節内注射され、その後に、歩様検査、フォースプレート歩様解析、X線検査が実施されました。
結果としては、治療の三日後から三ヶ月後において、跛行グレードが有意に減少していたことが分かり、アルコールの関節内注射による歩様の改善効果が示されました。また、短期の経過追跡をした症例のうち、アルコール注射から12ヶ月後の時点で、健常歩様に回復していた馬は91%(10/11頭)に達していました(残りの一頭も跛行グレードは0.5で、ほぼ健常歩様であった)。
この研究では、長期の経過追跡をした馬において、健常歩様であった馬は78%(7/9頭)でしたが、このうち、アルコール注射から14〜24ヶ月後の時点で、健常歩様に回復していた馬は80%(4/5頭)に達していました。なお、難治性の跛行を呈した2頭のうち、一頭は飛節内腫以外の疾患があり、もう一頭は、関節腔コラプスのため、注射針の穿刺が出来なかったことが報告されています。
このため、馬の飛節内腫に対しては、罹患した関節腔へのエチルアルコールの注射によって、良好な疼痛の緩和作用が得られて、健常歩様への回復が期待できることが示唆されました。なお、この研究では、アルコール注射前に、必ず造影X線検査が行なわれて、近位の足根関節への連絡が無いかが確認されました(近位関節にアルコールが迷入してしまうのを回避するため)。
この研究では、アルコール注射療法のあとにも、X線画像上での関節癒合は達成されていませんでした。また、注射の三日目という早いタイミングから、跛行が改善していました。このため、アルコールの関節注射による治療効果は、骨癒合による関節安定化ではなく、アルコールが関節組織での神経変性を誘導して、痛覚を減退させたためと推測されました。
この研究では、遠位の足根関節へのアルコール注射で跛行改善したあとに、近位の足根関節の変性関節疾患を続発する危険性があるという警鐘が鳴らされています。その要因としては、注射したアルコールの微量が近位関節へと迷入してしまったこと、および、遠位関節が変性したことで、同関節の可動性に変化を生じて、近位関節への異常な歪みを起こしたことが挙げられています。
この研究では、2つある遠位の足根関節のうち(遠位足根骨間関節&足根中足関節)、片方だけが罹患していた場合にも、アルコール注射療法を選択するのであれば、変性関節疾患が波及する可能性があることから、両方の関節腔に同時に注射することが推奨されています。ただ、遠位足根骨間関節が罹患していた馬のなかには、重度の骨棘形成のために針穿刺が困難なケースもあったことが報告されています。
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