馬のキャバレティ運動による関節への影響
話題 - 2023年08月19日 (土)

近年、馬の運動器疾患に対するリハビリ療法では、様々な手法が試みられていますが、その一つとして、地面に置いた横木を跨がせるキャバレティ運動も応用されています。ここでは、馬のキャバレティ運動による、関節への影響を評価した知見を紹介します。この研究では、41頭の健常馬を用いて、地上横木や、地面から持ち上げた横木を常歩で通過させて、その際の運動学的歩様解析が実施されました。
参考文献:
Walker VA, Tranquillle CA, MacKechnie-Guire R, Spear J, Newton R, Murray RC. Effect of Ground and Raised Poles on Kinematics of the Walk. J Equine Vet Sci. 2022 Aug;115:104005.
結果としては、通常の常歩運動に比較して、常歩で横木を通過することで、遊脚相での関節屈曲が増加することが分かり、その作用は、地面から持ち上げた横木では更に増強されていました。また、常歩で横木を通過することで、キ甲、腰角、仙骨突起の各部位における頭尾側方向への可動域が有意に減少しており、更に、腰角と仙骨突起の部位における内外側方向への可動域にも有意に増加していました。

このため、常歩で横木通過を行なうことで、遊脚相における関節屈曲が大きくなり、体躯の回遊も起きていないため、常歩でのキャバレティ運動は、前後肢の諸関節の可動域を向上させるためのリハビリ運動として有益であることが示唆されました。古典的にも、キャバレティ通過することで、馬が四肢を持ち上げる度合いが増して、各関節の屈伸を促進すると考えられていましたが、本研究では、客観的な機械測定である歩様解析装置を用いて、その現象が証明されたと言えます。
この研究では、地上横木(高さ10cm)と地面から持ち上げた横木(高さ26cm)を比較したところ、後者のほうが、四肢の屈伸が増強されており、さらに、キ甲部での可動域の有意な増加は、地面から持ち上げた横木でのみ認められたことが報告されています。このため、キャバレティ通過を介したリハビリ運動では、徐々に横木を高くすることで、前後肢の諸関節のみならず、背部の上下運動を促すという効能が期待できると考えられました。

一般的に、キャバレティ通過では、四肢を挙上する物理的な高さが増すだけでなく、遊脚相が時間的に長くなることから、残りの三肢で馬体のバランスを維持する度合いが大きくなることが知られています(常歩での横木通過の場合)。このため、キャバレティ運動によるリハビリは、馬体の動的安定性(Dynamic stability)を維持するための筋力を向上させるのに有用であると考えられています。加えて、キャバレティ運動では、複数の横木に蹄をぶつけないように肢を運ぶことから、固有受容器スキル(Proprioceptive skill)を促進させる効能もあると言われています。
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