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馬の後膝をエコー検査する注意点

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馬の後膝(膝関節)には、関節炎やボーンシストなどの骨の病気だけでなく、膝蓋靭帯、十字靭帯、半月板などの病気も起こります。これらの軟部組織は、X線検査では描出されないため、エコー検査による精査が必要となります。ここでは、馬の後膝をエコー検査するときの注意点を喚起した知見を紹介します。

参考資料:
Stacey Oke, DVM, MSc. Take Caution Using Contralateral Limbs for Patellar Ligament Exams. AAEP Convention, Article, Diagnostics and Technology, Injuries & Lameness, Ligament & Tendon Injuries, Sports Medicine: Feb 19th, 2023.

米国のジョージア大学獣医学部のジョアンナ・キャノン獣医師は、2022年の全米馬臨床医協会(AAEP)の学会において、馬の後膝でのエコー検査に関する発表をしています。この中では、馬の膝蓋靭帯のエコー検査するときに、跛行していない対側肢を比較対象にすると、かなりの割合の症例において誤診が起こりうる、という警鐘が鳴らされています。

一般的に、馬の後膝にある中間膝蓋靭帯は、後肢の起立装置(Stay apparatus)の一つとして機能しており、筋肉を使わずに立ち続けるのを可能にする解剖学的構造物になります。そして、乗馬の競技馬において、この靭帯の損傷に起因して跛行するケースがあることが知られています。

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キャノン獣医師によると、馬の膝蓋靭帯の病態を評価するときには、エコー検査が有用な診断手法であるものの、靭帯の横断像においては、健常でも縞模様が認められることがある、と述べられています。この描出像は、低エコー輝度の領域(暗く見えるエリア)として観察され、靭帯の裂傷や挫傷に類似した見え方をしてしまいます。

この研究では、12頭の乗用馬を対象にしており(六頭の温血種と六頭のクォーターホース)、これらの馬は、明瞭な跛行を示さず、関節包膨満や外傷病歴もなく、後膝に異常が認められない個体となっていました。しかし、この12頭の膝蓋靭帯をエコー検査したところ、両後肢のエコー所見が左右対称であったのは67%の症例に留まっていました。

このため、馬の膝蓋靭帯のエコー画像においては、たとえ疼痛を示していない馬であっても、左右後肢で見え方が異なる個体が33%に及んでいることになります。つまり、エコー上の低エコー領域を、靭帯損傷の根拠であると判断すると、約1/3の確率で誤診してしまう(痛みを伴わない靭帯の縞模様を、病気であると判断ミスしてしまう)という懸念が示されています。

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このため、キャノン獣医師は、馬の後膝の疾患が疑われるケースでは、膝蓋靭帯の縞模様が左右非対称である個体もいることを考慮して、他の病態も併せて評価することを推奨しています。具体的には、脂肪パッド組織内の炎症像、大腿膝蓋関節包の膨満、および、体重負荷させていない状態において、低エコー領域の幅が広くなる所見(検査肢を挙上させた状態でエコー描出する)、などが診断指標になりうると言われています。

また、馬の後膝での疾患を診断する際には、屈曲試験による跛行明瞭化や、診断麻酔による歩様良化なども、疼痛箇所の限局化に有用だと考えられます。なお、この研究では、膝蓋靭帯に認められる縞模様の見え方は、温血種とクォーターホースの両群で有意差が無かった(低エコー領域の数や幅、縞のパターン等)ことも報告されています。

ヒトに利き手があるのと同様に、馬という動物にも、得意な手前がある個体が多く、それによって、運動器の構造も、左右非対称になるケースがあると推測されます。このため、馬の跛行診断においても、跛行肢と対側肢の対称性のみに依存しない判断が重要になってくると言えそうです。

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