馬の文献:屈曲性肢変形症(Wagner et al. 1985)
文献 - 2023年08月25日 (金)

「馬の深屈腱副靭帯(遠位支持靭帯)の切断術における長期的な治療成績」
Wagner PC, Grant BD, Kaneps AJ, Watrous BJ. Long-term results of desmotomy of the accessory ligament of the deep digital flexor tendon (distal check ligament) in horses. J Am Vet Med Assoc. 1985 Dec 15;187(12):1351-3.
この症例論文では、馬の蹄関節での屈曲性肢変形症(いわゆるクラブフット)に対する外科的療法の治療効果を検証するため、1982~1983年にかけて、米国のワシントン州立大学獣医病院にて、クラブフットの治療のため、深屈腱副靭帯(遠位支持靭帯)の切断術が実施された40頭の馬における、医療記録の回顧的解析および長期的な治療成績が評価されました。
結果としては、深屈腱副靭帯の切断術のあとに長期的な経過追跡(9ヶ月〜四年間)ができた馬のうち、無跛行で騎乗使役できていた馬は88%(35/40頭)に及んでいました。このうち、症例馬の年齢別に見ると、無跛行で騎乗できた馬の割合は、一歳齢未満で手術を受けた場合には92%(24/26頭)であったのに対して、一歳以上で手術を受けた場合には79%(11/14頭)とやや低くなっていました。また、馬主の意図した用途/レベルへの騎乗使役を達成していた馬は83%(33/40頭)となっており、それを達成できなかった馬のうち、クラブフットの合併症が原因であった馬が86%(6/7頭)であり、手術の合併症が原因であった馬は14%(1/7頭)に留まっていました。
このため、馬のクラブフットに対しては、深屈腱副靭帯を外科的に切断することで、八割以上の成功率が期待され、良好な予後を示す馬の割合が高いことが示唆されました。この論文は、80年代という比較的に古い時代のものでしたが、手術の合併症で予後不良となった馬は2.5%(1/40頭)のみであり、この術式の侵襲性や難易度の低さが奏功したものと推測されています。また、一歳齢以上で施術した馬のほうが治療成功率が低かった要因としては、術前でのクラブフットの経過が長かったため、蹄関節の周囲組織が拘縮を起こしていて、深屈腱の緊張緩和(支持靭帯切断術の効能)による治療効果が発揮されにくかった事が挙げられています。
一般的に、深屈腱の副靭帯は、この腱と管骨掌側面を繋いでいるため、荷重で球節が沈下する際に、深屈腱に掛かる負荷を一部吸収する作用があります。また、腱から深指屈筋へと急激に歪みが伝達するのを緩衝することで、筋肉を挫傷から保護する役目も担っています。つまり、クラブフットの治療のために、深屈腱の副靭帯が切断されると、深指屈筋を痛めるリスクが増したり、運動中の筋疲労が起こりやすくなる(将来的な競走能力の低下に繋がる)という通説もあります。一方、この手術を受けた後に剖検となった馬の所見では、切断された副靭帯は線維組織で再結合されて、腱〜靭帯〜管骨の連続性は戻ると言われており(その全長は術前よりも長くなる)、治癒後の靭帯の強度は不明ではあるものの、肢端の解剖学的機能には、長期的な悪影響は無いという仮説も成されています。
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