馬のボディコンディション指数と体脂肪率
話題 - 2023年08月30日 (水)

近年では、馬においても、肥満やメタボによる健康障害が多くなっています。しかし、一般的な牧場や乗馬クラブでは、馬の体重計が無いことも多いため、肥満馬の飼養管理を行なう際には、ボディコンディションスコア(BCS)という、九段階に分けられた大まかな数値を目安にするしかない、という課題があります。このため、下記の研究では、ボディコンディション指数(BCI: Body condition index)という指標を算出して(上図参照)、重水希釈法によって計測した体脂肪率との関連性が解析されました。
参考文献:
Potter SJ, Erdody ML, Bamford NJ, Knowles EJ, Menzies-Gow N, Morrison PK, Argo CM, McIntosh BJ, Kaufman K, Harris PA, Bailey SR. Development of a body condition index to estimate adiposity in ponies and horses from morphometric measurements. Equine Vet J. 2023 Aug 4. doi: 10.1111/evj.13975. Online ahead of print.
結果としては、21頭のポニーや馬から算出したところ、BCIと体脂肪率との間に中程度の正の相関が得られる(ペアソン相関係数=0.74)ことが分かりました(統計的にも有意な相関:p<0.001)。しかし、BCIと体脂肪率の散布図では、体脂肪率の低い又は高い領域(グラフの両端)では、近似曲線が上方へ沿ってしまうことから、瘦せている個体では、体脂肪率を僅かに過小評価してしまい、太っている個体では、体脂肪率を僅かに過大評価してしまう、という傾向が認められました。また、実際の現場での検証では、シェトランドポニーとミニチュアホースにおいて、BCIと体脂肪率の相関に多様性が生まれやすいことが分かり、これらの馬体の形状に個体差が大きいことに起因すると考察されています。

この研究では、馬体の骨格サイズ(BCI計算式の分母)の指標として、体高と体長の両方を含めていることが特徴で、これは、2015年頃に、初期に提唱されたBCI計算式に比べて、体長を計算式に加えた点が特徴と言えます。これによって、馬体が前後に長い馬や、上下に高い馬など、体格の個体差をより正確に反映できるようになったと考察されています。一方、馬体の太さ(BCI計算式の分子)の指標として、胸囲と腹囲の他に、頚周を含めているのも特徴で、これにより、馬メタボリック症候群の罹患馬において、頚部に皮下脂肪が蓄積しやすい事象を、より正確に反映させていると考察されています。なお、馬メタボリック症候群の診断で用いられる、タテガミの付け根の脂肪蓄積を点数化したスコア(CNS: Cresty neck score)も、BCIと有意な相関を示すことが知られています。
この研究では、同一馬を複数の観察者が点数化したときのバラつきも評価しており、観察者間の変動係数を算出したところ、BCSでは13.9%に上ったのに対して、BCIでは10.9%に留まっていました。この要因としては、BCSの点数化は、馬体各部位の主観的な評価に依存するのに対して、BCIの計算式は、巻き尺での客観的な計測値に基づくため、主観的な要素が入らず、観察者間でのバラつきを小さくできるという結果に繋がったため、という考察がなされています。ただ、BCSでは、点数化する経験を十分に積むことで、スコアの再現性が高くなり、観察者内変動は小さくなることも知られています。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2023 Aug 4. doi: 10.1111/evj.13975.
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