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乗馬での怪我とヘルメット着用の関連性

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乗馬スポーツでは、落馬などの事故によるライダーの怪我を防ぐため、ヘルメットの着用は非常に重要であると言えます。このため、乗馬でのライダーの怪我において、ヘルメット着用と怪我の発生率や重篤度の関連性を解明するため、様々な調査が行なわれています。下記の研究では、米国のモンタナ州のある救急病院にて、2011~2020年にかけて、乗馬関連の怪我で搬送された患者の医療記録が解析されました。

参考文献:
Carter BT, Richardson MD. A retrospective study of helmet use and head injury in severe equestrian trauma. J Neurosci Rural Pract. 2023 Jan-Mar;14(1):161-164.

結果としては、乗馬による怪我のうち、皮膚から浅い箇所の損傷を負ったライダーの割合は、ヘルメットの未着用者では25%に上ったのに対して、ヘルメットの着用者では0%となっており、ヘルメットを着用することで、浅い箇所の損傷を発症するリスクを有意に減少できるという結果が示されました。一方で、頭蓋骨の骨折を起こしたライダーの割合は、ヘルメットの未着用者(14%)と着用者(13%)で有意差は無く、また、脳震盪を起こしたライダーの割合も、ヘルメットの未着用者(33%)と着用者(25%)で有意差が認められませんでした。更に、頭蓋骨内の損傷を負ったライダーの割合は、ヘルメットの未着用者(53%)と着用者(50%)で有意差が無いことが分かりました。このため、落馬等で起こす頭部の深刻な怪我に対しては、ヘルメットも万能ではなく、着用していても頭蓋内損傷などの重篤な疾患を起こし得ることが示唆されました。

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この研究では、乗馬スポーツにおいてヘルメットを着用することの有用性が、頭部の重篤な怪我に関して言えば、必ずしも高くないというメッセージにも取れます。しかし、今回のデータの解釈には注意を要する、という警鐘も鳴らされています。例えば、今回の研究では、乗馬している時に起こった怪我であっても、ヘルメットを着用していたかの稟告が取られたのは、全体の18%に留まっていました。このため、患者の怪我が軽症で、医師が短時間で診察を終えたケースでは、ヘルメットの着用状況までカルテ記載しなかった可能性も考えられます。その結果、ヘルメットの着用によって軽傷で済んだという事例が、今回のデータには含まれず、ヘルメット着用の有益性が過小評価されたという可能性があると考察されています。

一般的に、乗馬スポーツで発生する事故に際しては、ヘルメット着用が怪我の防止に繋がることが知られています。過去の文献では、乗馬での怪我において、怪我の重篤度スコア、脳震盪の発症率、脳組織の損傷の発生率などが、ヘルメット着用によって減少することが報告されています(Lemoine et al. J Trauma Nurs. 2017;24:251)。また、小児科の医療データを解析した他の文献でも、乗馬での怪我において、怪我の重篤度スコア、脳組織損傷の発生率、および、集中治療室への入院率が、ヘルメット着用によって減少できるという知見が示されています(Short et al. J Pediatr Surg. 2018;53:545)。今回の研究において、これらの相反する成績が認められた理由については、明確には結論付けられていませんでした。

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この研究では、乗馬による怪我で、救急病院に搬入された患者のみが調査対象となっていましたが、そのうち、ヘルメットの着用率は31%とかなり低くなっていました。このため、たとえ落馬をしても、ヘルメット着用により軽い怪我で済んだケースでは、救急病院に搬送されずに済んだ事例も多かったと推測されています。一方、乗馬経験の豊富なライダーの割合は、ヘルメットの未着用者(86%)のほうが着用者(64%)よりも高いことが分かり、また、仕事で騎乗していた患者(乗馬クラブの指導者等)の割合も、ヘルメットの未着用者(43%)のほうが着用者(15%)よりも顕著に高くなっていました。このデータは、乗馬経験の豊富なライダーほど、ヘルメットを着用せずに騎乗する場合が多く、結果的に、救急病院に搬送されるような重症な怪我を負ってしまう割合が高くなった、という事象を示しているのかもしれません。

この研究では、調査対象となった患者の性別を見ると、女性でのヘルメット着用率(39%)に比べて、男性でのヘルメット着用率(16%)のほうが低い傾向が認められました。また、年齢は、ヘルメットの未着用者(39.2歳)のほうが着用者(34.8歳)よりもやや高齢で、さらに、肥満の度合いを表すBMI値を見ると、ヘルメットの未着用者(平均BMI=30.5)のほうが着用者(平均BMI=24.9)よりも顕著に高くなっていました。ただ、これらの事象が認められた理由についても、この論文内の考察では、明確には結論付けられていませんでした。

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