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馬の文献:屈曲性肢変形症(Charman et al. 2008)

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「72頭の馬の屈曲性手根変形症に対する外科的治療」
Charman RE, Vasey JR. Surgical treatment of carpal flexural deformity in 72 horses. Aust Vet J. 2008 May;86(5):195-9.

この症例論文では、馬の手根関節での屈曲性肢変形症に対する外科的療法の長期的な影響を検証するため、豪州のゴールバーンバレー馬病院にて、1999〜2006年にかけて、屈曲性手根変形症の治療のため、外側尺骨筋腱および尺側手根屈筋腱の切断術(副手根骨の近位2cmの位置で外科的切断)が実施された72頭の馬における、医療記録の回顧的解析が行なわれました。

結果としては、屈曲性手根変形症の外科的治療における成功率は82%(111/135肢)に及んでおり、この際には、術後に三歳まで意図した用途に飼養された場合で、サラブレッド競走馬では、競走デビューを果たした場合が、治療成功と定義されていました。また、長期的な経過追跡ができた症例を品種別に見ると、サラブレッド競走馬での治療成功率は72%(26/36頭)に留まったのに対して、他の馬での治療成功率は86%(12/14頭)に上っていました。

この研究では、術前の病態グレードが点数化されており、手根部の角度が健常(前膝が真っ直ぐな状態)よりも屈曲している度合いが20度以内の場合をグレード1、屈曲が20〜40度の場合をグレード2、屈曲が40度以上の場合をグレード3としていました。そして、屈曲性手根変形症の外科的治療における成功率は、グレード1では100%(25/25肢)、グレード2では89%(78/87肢)に及んだのに対して、グレード3での治療成功率は57%に留まる(8/14肢)という成績が示されました。

このため、馬の屈曲性手根変形症に対する外側尺骨筋腱および尺側手根屈筋腱の切断術では、比較的に高い治療成功率が期待され(施術された肢の八割以上)、意図した用途に飼養できる馬の割合も高いことが示唆されました。しかし、治療成功率は、競走馬のほうが少し低く、重篤な病態(グレード3)では顕著に低いというデータも示されています。なお、この研究では、治療時に12ヶ月齢に達していた症例もおり、通説とは異なり、馬の屈曲性手根変形症は、自然治癒する病態ではない個体も多いという警鐘が鳴らされています。

この研究では、グレード3の屈曲性手根変形症では、手術による治療成功率が低かっただけでなく、術後に副木やキャストによる外固定法を要した症例が六割に達しており、これらの症例での治療成功率は17%に過ぎませんでした。このため、重篤な症例に対しては、より早期に外科的療法を決断することで、術後に外固定を要した場合でも、その実施や管理が容易になると考えられました。また、グレード3の馬における手術時の年齢は、グレード1や2に比べて若い傾向にあり、屈曲性手根変形症によって起立や歩行が困難となり、成長遅延や他の疾患を併発していたことが示唆されました。

この研究では、外側尺骨筋腱/尺側手根屈筋腱を切断する際に、腱の中心部に筋組織が認められた場合には、それを保存する術式が選択されました。この理由としては、中心性筋組織が残存することで、これが足場となり腱線維の再構築の一助になり、過剰な瘢痕組織の形成を予防できると考えられました。また、この筋組織を保存することで、より粘弾性の高い腱線維が再生するのであれば、成長後に、筋肉への負荷増加を抑えたり(筋の易疲労性を防いで競走能力向上に繋がる)、レース中に前膝が過伸展するのを防ぐ(手根骨の小片骨折のリスクを下げる)などの好作用が得られるのかもしれません。

この研究では、屈曲性手根変形症の罹患肢なうち、約半数(68/135肢)において前膝の肢軸異常症(外反症または内反症)を併発していました。しかし、これらのうち、外側尺骨筋腱/尺側手根屈筋腱の切断術に不応性を示したのは僅かに7%のみであり、このうち、過半数の症例では、肢軸異常を矯正するための他の手術は不要であったことが報告されています。つまり、肢軸異常は付帯的な病態であり、手根関節の屈曲性肢変形症の治療を進めれば、外反症/内反症も治癒していく症例が多いことが示唆されました。

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