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馬の円鋸術における立位CTの有用性

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馬の副鼻腔炎において、抗生剤投与でも蓄膿が治癒しない場合には、立位での円鋸術(Standing sinus trephination)によって副鼻腔の洗浄、病巣掻爬、排液路形成、コンドロイド除去などが行なわれる事もあります。一方、近年では、立位でCT検査する技術も発達してきており、X線では分かりにくい副鼻腔の三次元構造を、CT画像で評価しながら円鋸術を実施することが可能になっています。

そこで、下記の研究では、馬の円鋸術における立位CTの有用性を検証するため、米国の三箇所の馬病院において、2009〜2022年にかけて、副鼻腔炎の治療のための円鋸術が実施された229頭の馬における(一部ロバを含む)、医療記録の回顧的解析が行なわれました。

参考文献:
Hopfgartner T, Brown JA, Adams MN, Werre SR. Comparison of equine paranasal sinus trephination complications and outcome following standing computed tomography, radiography and sinoscopy guided approaches for the treatment of sinusitis. Vet Surg. 2023 Aug 21. doi: 10.1111/vsu.14013. Online ahead of print.

結果としては、円鋸術の直後に治癒していた症例は57%で、長期的経過追跡において治癒が確認された症例は95%に及んでいましたが、いずれの場合も、立位CT検査の有無によって円鋸術の治療成績には有意差が無かったことが示されました。また、副鼻腔炎の病態として、一次性(直接的な副鼻腔への細菌感染が起きたケース)および二次性(歯根膿瘍など他の疾患から副鼻腔の細菌感染を続発したケース)に分類した場合でも、立位CTによる治療成績の差異は無かったと報告されています。

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この研究では、馬の副鼻腔炎に対する円鋸術では、立位CT検査による三次元的な画像診断は、治療成績を向上させることには繋がっておらず、通常のX線検査による二次元的な画像診断であっても、適切な円鋸術を実施するのに必要な情報が得られたと考えられました。しかし、今回の研究では、全身麻酔下での円鋸術や前頭骨フラップ術が選択された症例は含まれていませんでした。このため、広範な病巣拡大や腫瘍形成などを起こしていた症例では、立位CT検査を行なうことで、円鋸術では治らないという術前判断を下すのに役立った、という症例がいた可能性はあると推測されています。

この研究では、円鋸術の合併症として最も多かったのは、術後の出血(30%の症例)であり、その発症率は、立位CT検査が行なわれた馬群で有意に高くなっていました。この理由としては、立位CTで三次元構造を把握することで、副鼻腔域の隔壁を穿孔させて排液路を形成する措置が、より積極的に取られたことが挙げられています。一般的に、馬の頭部X線では、複数の骨組織が重複して描出されて、立体構造の把握が困難になることが知られています。このため、立位CTが適応された馬のなかには、CT画像に基づいた隔壁穿孔により、副鼻腔から鼻道へと効率的に排液されて、治療効果が向上した事例もあると考察されています。

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