新型コロナは馬には感染しないが変異はする?
未分類 - 2023年09月20日 (水)

ヒト社会では、コロナ禍がようやく収まりつつありますが、今後も、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がヒトや動物の体内で変異して、強毒株が生まれてしまうことが懸念されています。そこで、下記の研究では、馬の気管上皮細胞を培養して、新型コロナウイルスの疑似ウイルスを感染させた後、96時間にわたって、標識蛋白質(eGFP)の発現や、定量的PCR検査によるウイルス増幅の度合いが評価されました。
参考文献:
Legere RM, Allegro AR, Affram Y, Silveira BPD, Fridley JL, Wells KM, Oezguen N, Burghardt RC, Wright GA, Pollet J, Bordin AI, Figueiredo P, Leibowitz JL, Cohen ND. Equine bronchial epithelial cells are susceptible to cell entry with a SARS-CoV-2 pseudovirus but reveal low replication efficiency. Am J Vet Res. 2023 Jul 18;84(9):ajvr.23.06.0132. doi: 10.2460/ajvr.23.06.0132. Online ahead of print.
結果としては、馬の気管上皮細胞が新型コロナの疑似ウイルスに感染した後、96時間以内には標識蛋白質の発現が認められましたが、定量的PCR検査におけるデルタCt値は、ヒトの気管上皮細胞(3.24)よりも馬の気管上皮細胞(8.78)のほうが顕著に高くなっていました。つまり、デルタCt値の差から単純計算すると、新型ウイルスの増幅スピードは、ヒトよりも馬の細胞のほうが約50倍も長くなると推測されます(2の5.54乗は46.53)。このため、馬の気管上皮細胞においては、新型コロナの増幅度合いは、ヒトのそれよりも顕著に低いことから、ヒト社会での新型コロナの感染拡大に、馬が寄与する可能性は低いと考えられました。

一方、新型コロナの細胞内への侵入に関与する蛋白(ACE2: Angiotensin-converting enzyme 2)は、ヒトよりも馬で活性が低かったものの、ヒトと馬で97.3%の類似性を示していました。このため、新型コロナに感染したヒトが馬と接触した場合、馬の呼吸器系の細胞に新型コロナが侵入することが充分に起こり得るため(臨床症状を示すような感染には至らない)、馬の体内で新型コロナが変異して、致死率の高い新種ウイルスが生み出されてしまうリスクは否定できない、という考察がなされています。そう考えると、私たちが発熱や倦怠感などを感じたときには、新型コロナに感染している危険性を考慮して、馬との接触を避けるのが賢明と言えるのかもしれません。
参考資料:
[1] Marie Rosenthal, M.S. for Modern Equine Vet Magazine. Stay Away from Horses if You Have COVID-19. Originally published in Modern Equine Vet: US Davis Veterinary Medicine; News: Jan 31st, 2023.
[2] Christa Leste-Lasserre. Horses Are Susceptible to COVID Virus, but Not Disease. The Horse, AAEP Convention 2022, Article, Diseases and Conditions, Vet and Professional, Welfare and Industry: Jan 4th, 2023.
[3] Lawton, Rick Arthur, Benjamin Moeller, Samantha Barnum and Nicola Pusterla. People with Covid-19 should avoid close contact with their horses. HorseTalk, Horse Care & Health, News & Research: March 1st, 2022.

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