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馬の病気:股関節脱臼

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股関節脱臼(Hip joint luxation)について。

馬の股関節(=腸骨大腿関節:Coxofemoral joint)は多くの重厚な筋肉郡に囲まれ、二つの円靭帯(Round ligament)(=股関節の副靭帯:Hip joint accessory ligament)に支持されており、また、他の動物種よりも寛骨臼(Acetabulum)が深いことから、馬は一般的に、牛や小動物よりも股関節脱臼を起こしにくい事が知られています。馬の股関節脱臼の原因としては、転倒による股関節の過伸展(Overextension)、膝蓋骨の上方固定(Patellar upward fixation)、後肢の全肢ギプス固定(Hindlimb full-limb casting)などが挙げられており、腸骨骨折(Ilium fracture)を併発する症例が多いことが報告されています。

股関節脱臼の症状としては、重度~不負重性跛行(Severe to non-weight-bearing lameness)、蹄尖外転(Toe-out)、膝関節外転(Stifle-out)、飛節内転(Hock-in)の外観を示します。また、脱臼した大腿骨頭は背頭側変位(Craniodorsal dislocation)を起こすため、患肢の短縮化(Affected limb shortening)を生じて、起立時に後方から視診した際に、寛結節(Tuber coxae)が同じ高さにあるにも関わらず、羅患側の飛節が健常側よりも高い位置に観察されます。

股関節脱臼の診断では、多くの症例において、歩行時の臀部の聴診によって捻髪音(Crepitation)が聴取されますが、この場合には直腸検査(Rectal examination)によって腸骨骨折の除外診断(Rule-out)を試みることが重要です。触診では、大腿骨大転子(Femoral greater trochanter)の腫脹部位における圧痛を呈し、大転子を尾側面から前方に押し出せる所見で、大腿骨の不安定性(Femoral instability)が確認できる場合もあります。股関節脱臼の確定診断(Definitive diagnosis)はレントゲン検査(Radiography)で下され、ポニーやミニチュアホースでは起立位での撮影法も試みられていますが、多くの成馬の症例においては全身麻酔下(Under general anesthesia)でのレントゲン撮影によって、大腿骨頭変位の確認と、腸骨骨折の除外診断を行うことが必要とされます。

股関節脱臼の治療では、急性病態で寛骨臼の骨折を伴わない症例では、全身麻酔下で充分な筋弛緩剤(Muscle relaxation)を投与しての閉鎖性手動整復(Manual closed reduction)が試みられます。背臥位(Dorsal recumbency)での整復では、遠位肢を起重機(Hoist)で吊り上げることで、馬の体重を利用して遠位肢を牽引し、同時に遠位肢を外方捻転(External rotation)および内転(Adduction)させることで寛骨臼よりも遠位側に引き戻し、その後、内方捻転(Internal rotation)させることで整復が行われます。横臥位(Lateral recumbency)での整復では、馬体を固定物(壁、柵、杭、etc)にロープ等で保定した後、補助者数名が下腿部または繋部をロープで遠位側に牽引しながら、同時に遠位肢を外方捻転させて整復を試みます。

馬における股関節脱臼の外科的な開放性整復(Open reduction)は、ポニーやミニチュアホース等の小型品種のみに応用され、トグルピン固定術(Toggle pin fixation)および人工関節包の形成術(Prosthetic capsule technique)に、大腿骨大転子の転位術(Greater trochanter transposition)を組み合わせる術式が報告されています。また、ミニチュアホースに対しては、救助療法(Salvage procedure)として大腿骨頭の骨切術(Femoral head ostectomy)も試みられていますが、多くの症例で慢性跛行(Chronic lameness)を呈し、患肢の短縮化から間欠性(Intermittent)の膝蓋骨上方固定の合併症を起こし易いことが知られています。残念ながら、人間用のインプラントを用いての人工股関節形成術(Hip joint prosthesis)は、小型の馬に対しても強度が充分でないことが報告されています。

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