内視鏡誘導による馬の鼻中隔の切除術
話題 - 2023年09月25日 (月)

一般的に、馬の鼻中隔の疾患は稀ですが、シスト変性、過誤腫、膿瘍、外傷性肥厚、骨折性壊死、長軸性変形、腫瘍、真菌性鼻炎などによって、鼻中隔の肥厚や変形を生じて、通気障害や気道閉塞、呼吸雑音、鼻汁排出、顔面変形等の症状を呈することがあります。そのような症例では、鼻中隔を切除することで症状改善が見られることがあります。そこで、下記の研究では、13頭の鼻中隔疾患の罹患馬に対して、内視鏡誘導を介した鼻中隔の3ワイヤー切断術(Endoscope-assisted three-wire technique)が実施されました。
参考文献:
Ratliff BL, Bauck AG, Roe HA, Freeman DE. Endoscope-assisted three-wire technique for extensive nasal septum resection in horses. Vet Surg. 2023 Aug 31. doi: 10.1111/vsu.14021. Online ahead of print.
この研究の術式は、基本的には、従来法の一つである「円鋸+3ワイヤー法」に準じた手術法であり、円鋸を開ける前に、内視鏡での視認下で、産科ワイヤー(線鋸)を鼻中隔の後方を通過させるのを補助する術式となっています。
具体的には、まず、ワイヤーをカテーテル内に入れながら片方の鼻孔から挿入して、鼻中隔の後方まで進展させます。そして、反対の鼻孔から内視鏡を挿入して、生検チャンネルから出した鉗子でワイヤーの先端を掴んで引き戻すことで(下写真)、鼻中隔の後方を通過させたワイヤーを、左右の鼻孔から出した状態にします(上図A)。その後、同じ過程を繰り返して、二本のワイヤーを通しますが、その際には、色の異なる糸を目印としてカテーテルに通しておくことで、二本のワイヤーが交差しないように工夫しています。

その後は、従来法と同じように、前頭洞の吻側の箇所に円鋸孔を開けて、片方のワイヤーの両端をこの円鋸から出してから、これを鼻中隔の尾側辺を切るのに用います(上図B)。また、円鋸孔を介して、三本目のワイヤーを左右の鼻孔から出して、これを鼻中隔の背側辺を切るのに用います(上図C)。そして、一本目のワイヤーを用いて、鼻中隔の腹側辺を切ってから、腹側と背側の切開線をつなぐように、メス刃で吻側辺を切ります(鼻中隔の吻側5cmは残す)。その後は、切り終わった鼻中隔を鼻孔から取り出して、残存箇所はロンジュールで掻爬します。
結果としては、全ての症例において、運動不耐性や呼吸雑音は、改善または完治したことが報告されています。一方、術中には、円鋸からの出血で内視鏡の視野が妨げられて、口腔側へ迷入したり、絡まったりしたワイヤーを入れ直す措置を要したと述べられています。ただ、症例馬の頭部が小さかったり、術者の手が大きいときには、内視鏡誘導でワイヤーを通過させることで、操作時間の短縮や、手技の失宜を減らせるなどのメリットがあると考察されています。
馬の鼻中隔の切除術において、近年では、喉頭切開術を介して鼻中隔を切除する「2ワイヤー法」の術式も報告されています。この場合、3ワイヤー法よりも優れた点として、鼻中隔の後方にワイヤーを通す操作が容易であること(内視鏡も不要)、鼻中隔の尾側辺を切除する位置や角度を制御しやすいこと(ドワイヤン鉗子で鼻中隔尾側部を掴んでワイヤーのガイドとするため)、円鋸をしないため出血量が少ないこと、等が挙げられています。今後は、今回の内視鏡を介した3ワイヤー法と、喉頭切開を介した2ワイヤー法を、手術手技の難易性や合併症の発生率などの点から、比較評価していく必要があると言えます。

Photo courtesy of Vet Surg. 2023 Aug 31. doi: 10.1111/vsu.14021.
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