fc2ブログ
RSS

乗馬の後膝跛行での関節鏡の有用性

20230815_Blog_Topic255_ComparisonSurgMedTrtOutcm127csStfleLame_Pict1n.jpg

一般的に、乗馬の競技馬における後膝跛行は、散発的に見られる後肢の歩様以上の原因であり、比較的に重度な跛行を呈して、競技能力の低下を招くケースが多いことが知られています。しかし、後膝に発生する疾患のうち、関節軟骨や半月板、十字靭帯、側副靭帯などの損傷では、診断麻酔や画像検査による確定診断が難しい症例も多く、難治性の経過を取ることがあると言われています。

下記の研究では、英国のロスデイル馬病院において、2017〜2021年にかけて、後膝跛行の内科的または外科的療法が施された127頭の乗馬競技馬における、医療記録の回顧的解析が行なわれました。この研究には、一年間以上の長期経過ができた症例のみが含まれていました。

参考文献:
Frost CE, Bathe AP. Comparison of surgical versus medical treatment outcomes in 127 cases of stifle lameness in a sports horse population. Equine Vet J. 2023;55(S58):10-11. doi.org/10.1111/evj.12_13972. 05 September 2023.



結果としては、長期の経過追跡ができた馬のうち、騎乗復帰を果たしていた馬の割合は、関節注射療法による内科的治療では94%で、関節鏡手術による外科的治療では86%であったことが分かりました。また、内科的治療が不応性となり、外科的治療が行なわれた馬でも、騎乗復帰率は86%となっていました。

20230815_Blog_Topic255_ComparisonSurgMedTrtOutcm127csStfleLame_Pict2.jpg

この研究では、治療の一年後の時点での聞き取り調査において、発症前と同等、または、より高いレベルの競技に使役されていた馬の割合は、内科的治療では73%で、外科的治療では60%であったことも報告されています。なお、関節鏡での治療前に、関節注射が行なわれた否かは、術後の騎乗復帰率には有意には影響しなかったことも示されています。

このため、乗馬の競技馬における後膝跛行では、関節注射療法で難治性を示した場合でも、関節鏡手術によって八割以上の治癒率が達成できることが示唆されました。また、幸いにも、関節注射のみで治癒する馬が九割以上に上っており、後膝跛行そのものの予後は、一般的に良好であると考えられました。



この研究では、外科的治療が適応された症例において、関節鏡で確認された病態としては、軟骨軟化症、半月板損傷、半月板靭帯の挫傷などが含まれました。また、内科的治療が適応された症例において、関節注射された薬剤としては、コルチコステロイドが最も多く、次いで、血液製剤やポリアクリルアミド等が含まれました。

20230815_Blog_Topic255_ComparisonSurgMedTrtOutcm127csStfleLame_Pict3.jpg

この研究では、治療時の跛行グレードは、内科的治療(中央値2)よりも、外科的治療(中央値3)が適応された馬のほうが重篤となっていました(いずれも10段階グレード)。また、後膝以外の部位にも跛行の原因疾患を併発していた馬は、全体の過半数(51%)に及んでいました。しかし、内科的/外科的治療の何れにおいても、跛行グレードや併発疾患の有無は、騎乗復帰率には影響していなかったことが報告されています。

この研究では、乗馬の競技馬における後膝跛行は、両側性の病態が多いことが示されています。具体的には、内科的治療された馬のうち、左右両方の後膝に関節注射された症例は79%に及んでおり、更に、外科的治療された馬を見ても、左右両方の後膝を関節鏡手術された症例が65%に達していました。また、関節鏡された後膝においては、そのうち98%の関節に病態が発見されたことも報告されています。

20230815_Blog_Topic255_ComparisonSurgMedTrtOutcm127csStfleLame_Pict4.jpg

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.

関連記事:
・馬の球節の骨片は無跛行でも摘出すべきか?
・馬の滑膜感染の関節鏡での予後指標
・蹄骨の裏側の骨片での関節鏡
・馬の蹄関節での関節鏡の長期的予後
・馬の脛骨の顆間隆起骨折での関節鏡
・馬の後膝での関節鏡の長期的予後
・馬の関節鏡での骨片サイズの影響
・馬の関節鏡での抗生物質
・馬における針関節鏡の将来性
・馬の関節鏡でも局所麻酔を
・裏にある骨片は腱鞘越しに摘出
関連記事
このエントリーのタグ: 手術 関節炎 乗馬 跛行

プロフィール

Rowdy Pony

Author:Rowdy Pony
名前: 石原章和
性別: 男性
年齢: アラフィフ
住所: 北関東
職業: 獣医師・獣医学博士
叩けよ、さらば開かれん!

質問、御意見、記事の要望等は下記まで
E-mail: rowdyponies@gmail.com

最新記事

ブログメニュー

馬の話題

馬の病気の話題
・蹄葉炎, 切腱術
・ナビキュラー症候群
・蹄病一般, 装蹄
・腱靭帯疾患
・背部/腰部/仙腸部疾患
・プアパフォーマンス
・消化器疾患一般
・胃潰瘍
・虚血再灌流障害
・呼吸器の医療
・神経疾患, 神経学検査
・クッシング病
・繁殖疾患と繁殖学
・皮膚病の医療
・眼科疾患, 眼科治療
・歯科疾患, 歯科治療
・寄生虫病
・高齢馬の医療
・子馬の病気や管理法
・子馬/若齢馬の長期的影響
・突然死
・症例シリーズ

馬の医療の話題
・疝痛の検査
・経鼻チューブ
・腹水検査
・疝痛の予防
・疝痛の手術判断と予後予測
・開腹術の手技や合併症
・疝痛の外科的処置
・疝痛の獣医療での地域差
・跛行検査, 画像診断
・関節鏡
・去勢, 泌尿生殖器
・抗生物質
・COX-2限定阻害薬
・破骨細胞抑制剤
・ショックウェーブ
・パーグ治療
・馬のハンドリング, 投薬
・バイオマーカー
・麻酔
・整形外科
・キャスト, ピンキャスト
・再生医療
・先端医療
・良い死(Euthanasia)
・馬の獣医療一般

馬の一般的話題
・馬の飼養管理一般
・飼養管理での病気/怪我の予防
・馬学一般
・ウマ社会の話題
・獣医学一般, 日常
・馬の飼料
・跛行と運動
・調馬索
・サク癖
・馬の行動学や悪癖
・ハミや馬具
・輸送
・怪我や事故の予防,対処法
・ホースマンの怪我と事故
・競馬での事故死や骨折
・馬とヒト, 伝染病, 馬動物学

馬の診療シリーズ

サイト内タグ一覧

FC2カウンター

リンク

カレンダー

01 | 2024/02 | 03
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 - -

推薦図書

月別アーカイブ

お断わり

20130414_Blog_Message_Pict1.jpg
このサイトに掲載されているイラスト、画像、文章は、すべて管理主自身が作成したもの、もしくは、著作権フリーの素材リンクから転載したものです。

カテゴリ

全記事表示リンク

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
22位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
自然科学
2位
アクセスランキングを見る>>

FC2ブログランキング

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

検索フォーム

QRコード

QR