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エソメプラゾールによる馬の胃潰瘍の治療

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馬は胃潰瘍を起こし易い動物であることが知られており、近年では、プロトンポンプ抑制剤であるオメプラゾールの投与によって、良好な治療および予防効果が示されています。一方、ヒト医療では、エソメプラゾールという、異性体のプロトンポンプ抑制剤が一般的に用いられており、オメプラゾールに比較して、薬物動態でのAUC(血中濃度-時間曲線下面積)が有意に広いことから、胃酸分泌を抑える効能も、エソメプラゾールのほうが優れていることが知られています。

そこで、下記の研究では、馬の胃潰瘍に対するエソメプラゾールの治療効果が検証されました。この研究では、内視鏡で無腺胃部の胃潰瘍(グレード2以上)が確認された151頭の馬に対して、オメプラゾールまたはエソメプラゾールの経口投与が実施され(28日間、無作為割り当て)、経時的な内視鏡による胃潰瘍病態の評価、および、オッズ比(OR)の算出による治療効果の比較が実施されました。

参考文献:
Sundra T, Gough S, Rossi G, Kelty E, Rendle D. Comparison of oral esomeprazole and oral omeprazole in the treatment of equine squamous gastric disease. Equine Vet J. 2023 Sep 7. doi: 10.1111/evj.13997. Online ahead of print.

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結果としては、胃潰瘍の治癒率は、オメプラゾール投与群(59%)に比べて、エソメプラゾール投与群(85%)のほうが有意に高いことが分かり、後者を投薬したほうが、胃潰瘍病態が改善する確率が四倍も高い(OR=4.00)というデータが示されました。この際には、胃潰瘍の病変グレードが減少した場合を治癒と定義していました。また、腺胃部の潰瘍も呈していた一部の馬を見ても、その治癒率は、オメプラゾール投与群(25%)に比べて、エソメプラゾール投与群(55%)のほうが有意に高くなっていました(この場合はOR=4.44)。なお、今回の研究では、薬剤の投与者(馬主)および内視鏡動画の評価者は、いずれも盲検では無かった(どの馬にどちらの薬剤が投与されたかは知っていた)と述べられています。

このため、馬の胃潰瘍に対しては、オメプラゾールよりもエソメプラゾールの経口投与のほうが、より優れた胃潰瘍病変の治療効果が期待できることが示唆されました。また、過去の文献では、オメプラゾールの吸収には、飼料内容が大きく影響することが知られており、乾草のみ給餌されている馬での胃酸抑制効果は、オメプラゾール投与では五割の馬に留まったのに対して、エソメプラゾール投与では八割以上に上ったという報告もあります(Sykes et al. EVJ. 2017;49:637)。つまり、エソメプラゾールの経口投与のほうが、飼料の影響を受けにくく、安定した胃酸分泌の抑制効果を発揮できると考察されています。

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