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米国の獣医師でのコロナワクチンの接種率

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新型コロナ(COVID-19)の地球規模での感染拡大に伴い、2020年の三月に、世界保健機関(WHO)はパンデミックを宣言し、その直後、米国でも緊急事態宣言が出されました。その結果、米国の多くの州では、外出禁止令が出ましたが、多くの獣医師は、公衆衛生を維持するという仕事の特性もあって、出勤や往診により業務を継続するという割合が高くなったと言われています。

一方、新型コロナへの対策として開発されたワクチンは、遺伝子操作の過程を介することや、長期的な安全性に関する懸念が払拭し切れない側面があり、接種を躊躇する要因になったと考えられています。そこで、下記の研究では、米国の獣医師におけるコロナワクチンの接種について検証するため、全米獣医協会(AVMA)の所属獣医師の中から、無作為に抽出された2,721名に対する聞き取り調査が実施されました。

参考文献:
Benishek LE, Tomasi SE, Pikel L, Golab GC. Veterinarian COVID-19 vaccine uptake was widespread, but safety and efficacy concerns held some back: descriptive results from a survey of AVMA members' perceptions of COVID-19. J Am Vet Med Assoc. 2023 Jan 9;261(5):678-687.

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結果としては、米国の獣医師におけるコロナワクチンの接種率は89%に達したことが分かり、これは、米国民の全体としての接種率である53%(2021年の六月時点)よりも顕著に高くなっていました。なお、コロナワクチンを未接種の獣医師に、その理由を聞いたところ、ワクチンの副作用によるリスクの方が、新型コロナの感染によるリスクよりも高いと考えるから、という回答が最も多くなっていました(未接種の獣医師の74%)。

この研究では、獣医師におけるコロナワクチンの接種率が高かった要因として、リモートワークが実施しにくいという仕事の特性に加えて、家畜の群管理などを通して、ワクチン接種の理解が深いこと、および、人畜共通伝染病から獣医師自身の身を守る観点から、ワクチン接種に対する必要性の認識が強いこと、等が挙げられました。また、獣医学という、生物学的な学問を修了したことで、遺伝子操作を応用した新しいタイプのコロナワクチンは、ヒトの健康に長期的な有害作用を及ぼす可能性が低い(ホストのゲノムに遺伝子は組み込まないため)ことを、自らのバックグラウンドから理解しやすかったことも、大きな要因であったと考えられました。

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この研究では、米国社会において、獣医師が尊敬とリスペクトを持たれており、地域社会の手本としての信念を持って行動していることが、ワクチン接種率にも影響したと考察されています。例えば、米国の世論調査では、獣医師は最も社会的にリスペクトされている職業であること[1]、医師よりも獣医師の方が優れた人間性(情熱、誠実さ、信用度)を持つと考えられていること[2]、および、医師よりも獣医師の方が、気軽に話せて、親身になってくれて、理解が深く、自己肯定感が強い、という認識を持たれていること[3]、などの知見が示されていました。

また、この論文の中では、新興感染症の約75%が人畜共通感染症であることを鑑みると、動物の病気と公衆衛生の両方の知識を持つ獣医師の役割が、将来的な人間社会における感染症対策において、非常に重要であるとも述べられています。この論文内のデータで、ある意味、最も印象的なのは、米国民の約半分がコロナワクチンを打っていない事なのかもしれません。確かに、コロナワクチンには、未知の危険性が否定できません。ただ、ワクチン接種というものは、自分の為だけでなく、社会全体の為に受ける、という側面もあるのではないでしょうか。

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参考文献:
[1] Saad L. Top list of most honest and ethical professions: integrity of most medical professionals also highly rated. Accessed February 18, 2022.
[2] Glanz K, Rimer BK, Viswanath K. Health Behavior and Health Education: Theory, Research, and Practice. 4th ed. John Wiley & Sons; 2008.
[3] Kedrowicz AA, Royal KD. A Comparison of Public Perceptions of Physicians and Veterinarians in the United States. Vet Sci. 2020 Apr 22;7(2):50.

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