馬の病気:背側棘突起重複
馬の運動器病 - 2013年09月09日 (月)

背側棘突起重複(Overlapping dorsal spinous process)について。
胸椎(Thoracic spines)もしくは腰椎(Lambar spines)の背側棘突起の重複は、馬の背部痛(Back pain)において、最も多い原因のひとつであると言われており、第10~18胸椎に好発することが報告されています。背側棘突起重複は、転倒などの外傷による背側棘突起の骨性肥大(Bony enlargement)から突起間に衝突(Impingement)を起こすようになったり、椎間板脊椎炎(Diskospondylitis)に起因する椎体間隔の広がりから、二次性に背側棘突起の傾きを生じて発症に至ると考えられています。
背側棘突起重複の症状としては、初期病態では行動や気性の変化(Behavior/Temperament change)が見られ、鞍付けやブラシ掛けを嫌がったり、騎乗時の前進拒否や後退などの所見が認められます。背側棘突起重複の病態の進行に伴って、プアパフォーマンス、背部強直(Back stiffness)、後肢の異常歩様(Abnormal hindlimb gait)、背部の圧痛(Pain on palpation)を呈し、最長筋萎縮(Atrophy of longissimus dorsi muscle)が見られる場合もあります。
背側棘突起重複の診断では、触診によって棘突起列の不規則性(Irregularity)を触知したり、手動操作で胸椎および腰椎の可動性消失(Loss of flexibility)を確認できる場合もあります。背側棘突起重複の確定診断(Definitive diagnosis)はレントゲン検査(Radiography)で下され、棘突起間隙の狭窄化または消失(Narrowing/Loss of the interspinous space)、皮質骨面の骨硬化(Sclerosis of cortical margins)、棘突起の肥厚化(Transverse thickening)、骨融解(Osteolysis)、棘突起の変形(Change in shape of spinous process)などが認められます。また、核医学検査(Nuclear scintigraphy)によって、放射医薬性取込(Radiopharmaceutical uptake)の増加を確かめる手法も有効です。しかし、レントゲン検査および核医学検査によって背側棘突起の重複や衝突が認められても、必ずしも疼痛発現に至らない症例もあるため、棘突起間の浸潤麻酔(Infiltration anesthesia)を施して、跛行の改善および消失(Improvement or resolution of lameness)を確認する必要性が提唱されています。棘突起背側部の超音波検査(Ultrasonography)では、棘上靭帯付着部(Insertion of supraspinous ligament)における増殖体形成(Enthesiophyte formation)が示される事もあります。
背側棘突起重複の病態評価のためには、以下のグレード法が用いられています。
グレード1:軽度の皮質骨面の骨硬化を伴う棘突起間隙の狭窄化
グレード2:中程度の皮質骨面の骨硬化を伴う棘突起間隙の消失
グレード3:重度の皮質骨面の骨硬化を伴う棘突起の肥厚化および放射性透過像
グレード4:重度の皮質骨面の骨硬化&骨融解を伴う棘突起の変形
背側棘突起重複の治療では、馬房休養(Stall rest)、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の全身投与、棘突起間へのステロイド注射などが施されます。このような保存性療法(Conservative therapy)に不応性(Refractory)の症例に対しては、外科的療法が実施され、重複部背側棘突起の亜全骨切術(Subtotal ostectomy)や、衝突部の棘突起の骨面切除術(Cortex removal)が試みられています。背側棘突起重複の診断が正確であれば、外科治療によって良好な予後を示す可能性が示唆されていますが、椎間板脊椎炎や椎間関節炎などに続発して起こった病態では、難治性の慢性跛行(Prolonged chronic lameness)を呈して、競技や競走への復帰は困難である症例も多いことが報告されています。
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