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馬の文献:繋骨瘤(Caston et al. 2013)

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「エタノール関節注射を利用した冠関節固定術における回顧的評価:2006~2012年の34症例」
Caston S, McClure S, Beug J, Kersh K, Reinertson E, Wang C. Retrospective evaluation of facilitated pastern ankylosis using intra-articular ethanol injections: 34 cases (2006-2012). Equine Vet J. 2013 Jul;45(4):442-7.

この症例論文では、馬の繋骨瘤(リングボーン、近位指骨間関節[=冠関節]の変性関節疾患)に対する内科的療法の治療効果を検証するため、米国のアイオワ州立大学の獣医病院において、2006~2012年にかけて診察を受けた繋骨瘤の罹患馬34頭に対して、エタノールの冠関節内注射が実施され、その後の六ヶ月以上にわたる経過追跡が行なわれました。

結果としては、34頭の症例のうち、長期的な経過追跡ができなかった3頭を除くと、エタノールの冠関節注射の後に、健常な歩様に回復していた馬は55%(17/31頭)に及んでいました。そして、健常歩様ではないものの、跛行の改善が認められた馬は42%(13/31頭)であり、跛行が無変化であったのは3%(1/31頭)に留まっていました。また、治療後に、健常歩様に回復する、もしくは、騎乗使役に復帰するまでの期間は、中央値で8ヶ月となっていました。

この研究では、エタノールの冠関節注射の後に、合併症を起こした馬は18%(6/31頭)でした。このうち四頭は、注射の翌日に、加療された繋ぎの炎症性反応(腫脹と触診痛)と跛行を呈したものの、抗炎症剤(フェニルブタゾン)の投与と水冷療法により、数日で緩やかに回復したことが報告されています。なお、残りの二頭は、細菌性関節炎を発症して、抗生剤投与、感染部洗浄、局所肢灌流療法、および、関節切開手術と軟骨掻爬術によって治療され、このうち一頭は、三ヶ月後に廃用となっていました。

このため、馬の繋骨瘤に対しては、エタノールの冠関節注射により、健常な歩様に回復できる馬の割合が高く、比較的に良好な予後が期待できることが示唆されました。また、合併症で予後不良となった一頭は、重度な骨棘形成と関節腔狭窄を示しており、関節腔への注射針の穿刺が困難であったことから、冠関節周囲へのエタノール漏出から皮下膿瘍を発症したことが、予後が悪化した要因であると推測されました。このため、病態の進行した繋骨瘤では、X線画像や造影剤を介して注射針を誘導するなどして、エタノール漏出を最小限に抑えることが重要であると考えられました。

過去の文献では、難治性の繋骨瘤に対して、プレート固定術を用いた外科的な冠関節固定術が試みられており、治療成功率は、72%、86%、および、87%となっており[1-3]、エタノール注射による関節固定術と同程度の効能が期待されると考察されています。また、今回の研究では、二回のエタノール注射に不応性を示して、外科的な関節固定術が実施された一頭では、エタノールにより関節軟骨の変性が起こっていたため、外科的な関節固定の後に、繋骨と冠骨の癒合が短期間で達成されるのに寄与した可能性が高い、という考察が成されています。ただ、病態進行した繋骨瘤では、エタノール注射後に細菌性関節炎を続発するリスクがあることを考慮すると、エタノール注射は避けて、プレート固定による冠関節固定術のほうが推奨される症例も一定数いると考えられました。

過去の文献では、冠関節への一回のエタノール注射では、充分な関節癒合は達成できなかったという知見もあり[4]、今回の研究では、多くの症例に対して、一ヶ月間隔で2〜3回の注射を要するという考察が成されています。ただ、注射後のX線画像的な骨癒合の評価が不実施であった症例も多かったことから、エタノールの冠関節内投与に関しては、最善の注射回数や注射間隔は不明であり、各症例の病態進行によって多様性が大きいと推測されています。一方で、プレート固定による冠関節固定術と異なり、エタノール注射では、麻酔や手術、キャスト装着等が不要で、往診ベースでも加療できるのは大きなメリットであると言えます。

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参考文献:
[1] MacLellan KN, Crawford WH, MacDonald DG. Proximal interphalangeal joint arthrodesis in 34 horses using two parallel 5.5-mm cortical bone screws. Vet Surg. 2001 Sep-Oct;30(5):454-9.
[2] Schaer TP, Bramlage LR, Embertson RM, Hance S. Proximal interphalangeal arthrodesis in 22 horses. Equine Vet J. 2001 Jul;33(4):360-5.
[3] Knox PM, Watkins JP. Proximal interphalangeal joint arthrodesis using a combination plate-screw technique in 53 horses (1994-2003). Equine Vet J. 2006 Nov;38(6):538-42.
[4] Wolker RR, Wilson DG, Allen AL, Carmalt JL. Evaluation of ethyl alcohol for use in a minimally invasive technique for equine proximal interphalangeal joint arthrodesis. Vet Surg. 2011 Apr;40(3):291-8.

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