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馬の“ヘルペス禍”では濡れオガで感染拡大する?

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ご存じのように、ヒト社会が“コロナ禍”に見舞われてから三年以上が経ち、ワクチンの普及に伴って、ようやく事態の沈静化に向かいつつあります。一方、欧州のウマ社会における“ヘルペス禍”は、二年半が経った現在も、未だにエピデミック(地域的大流行)が完全には終息していません。通常、馬ヘルペスウイルス1型(EHV-1)は、肺炎・流産・神経症状などを起こし、日本では馬鼻肺炎の病原体として繁殖地でのワクチン接種が実施されますが、現在の欧州では、神経型EHV-1の感染拡大が見られています。

馬のヘルペス禍は、2021年の二月にスペインで始まり、三月にFEIが流行を宣言したあと、乗馬競技会の中止や、馬の移動制限などの対策を取ってきましたが、腰萎や起立不能などの髄膜脳炎の症例が報告され続けています。今回は、そのようなEHV-1の感染拡大に際して、尿中へのウイルス排出の重要性を検証するため、神経型EHV-1の罹患馬21頭における尿、血液、鼻腔スワブ検体のPCR検査が実施されました。

参考文献:
Velloso Alvarez A, Jose-Cunilleras E, Dorrego-Rodriguez A, Santiago-Llorente I, de la Cuesta-Torrado M, Troya-Portillo L, Rivera B, Vitale V, de Juan L, Cruz-Lopez F. Detection of equine herpesvirus-1 (EHV-1) in urine samples during outbreaks of equine herpesvirus myeloencephalopathy. Equine Vet J. 2023 Sep 12. doi: 10.1111/evj.14007. Online ahead of print.

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結果としては、神経型EHV-1の罹患馬21頭のうち、PCR検査で陽性を示したのは18頭であり、そのうち、尿中にEHV-1遺伝子が検出された馬は61%(11/18頭)に及んでいました。また、尿中のEHV-1遺伝子は、血液中のそれよりも長期間で、僅かに高濃度で検出されていました。ただ、尿中のEHV-1遺伝子は、鼻腔スワブのそれよりも低濃度であったことが報告されています(期間は同程度)。このため、馬の神経型EHV-1の感染拡大に際しては、血液や鼻腔スワブの他に、尿サンプルのPCR検査も併用することで、より高感度に罹患馬を検出できるという可能性が示唆されました。また、検体採取の点で言えば、採血や鼻腔スワブに比べて、採尿のほうが侵襲性が低いという利点も挙げられています。

この研究では、尿中に検出されたEHV-1遺伝子は、膀胱でEHV-1が増幅した結果であり、尿中に排出されたヘルペスウイルスが、濡れオガ等を介して拡散して、EHV-1の感染拡大に関与する可能性があると考察されています。また、膀胱組織内において、EHV-1の持続感染が起きたことで(血中の抗体が充分に届かなかった等)、血液中よりも長期間に渡ってウイルス排出が生じた可能性も示唆されています。一方で、血中のEHV-1遺伝子がコンタミするには、10〜20mLの血液を要することから、今回の研究において、膀胱炎に起因して尿中にEHV-1遺伝子が迷入した可能性は低いと結論付けられています。

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過去の文献では、神経型EHV-1の罹患馬において、感染から最長48時間後までに、飼養環境内から感染能のあるウイルスが検出されることが報告されていますが、EHV-1遺伝子の検出量は、藁よりもオガのほうが少ないことが示されています(Saklou et al. EVJ. 2021;53:349)。このため、神経型EHV-1の感染が疑われる症例の馬房では、尿を介したウイルス拡散を抑えるため、敷料としてオガを用いることが推奨されています。

幸いにも、神経型EHV-1のエピデミックが欧州以外に広がる徴候は、現時点では見られていませんが、不顕性感染した馬が日本に輸入されてくる可能性は常にあります。また、日本の生産地で流産を起こすことのある馬鼻肺炎も、原因がヘルペスウイルスである点は同じです。このため、日本の獣医師やホースマンも、今回の論文のような、海外での感染症制御の知見にアンテナを張り、最善の防疫対策をアップデートし続けることが重要なのかもしれません。

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