fc2ブログ
RSS

馬の昆虫刺咬性過敏症:抗原免疫療法

20230907_Blog_Topic267_EstablshmPrtclPrvtVaccntnEqIBH_Pict1.jpg

馬の病気のなかでも、皮膚病は、目に付きやすい事もあり、ホースマンからの相談が多いものの一つです。このうち、馬のアレルギー性皮膚炎は、体躯や四肢に発疹や脱毛、掻痒感による自傷を起こして、ホースマンを悩ませる病気ですが、その原因として多いのが、吸血昆虫などの唾液成分がアレルゲンとなって発症する、昆虫刺咬性過敏症(IBH: Insect bite hypersensitivity)であると言われています。

ここでは、サシバエ抗原を用いた免疫療法(抗原免疫療法:Allergen immunotherapy)にて、IBH症状を起こすアレルギー反応の制御を試みた知見を紹介します。この研究では、18頭の健常な実験馬を用いて、三種類のサシバエ抗原を二種類の補助剤(アジュバンド)を介して、皮下注射またはリンパ節内注射(顎下リンパ節)にて接種され(四週間おきに三回)、その後、身体検査や血液検査、および、体外での抹消血液単核細胞(PBMC)の再活性試験が実施されました。

参考文献:
Stefansdottir SB, Jonsdottir S, Kristjansdottir H, Svansson V, Marti E, Torsteinsdottir S. Establishment of a protocol for preventive vaccination against equine insect bite hypersensitivity. Vet Immunol Immunopathol. 2022 Nov;253:110502.

20230907_Blog_Topic267_EstablshmPrtclPrvtVaccntnEqIBH_Pict2.jpg

結果としては、いずれの注射経路においても、サシバエ抗原に対するIgG抗体の充分な濃度上昇が認められ、このIgGによって、他のIBH罹患馬から分離したIgE抗体の結合拮抗作用が達成できることが示されました。このため、サシバエ抗原の免疫療法は、IBHにおけるアレルギー反応を制御する新治療として有用であることが示唆されました(サシバエ抗原に対するIgG抗体価が上昇して、アレルギー反応を惹起させるIgE抗体が拮抗されるため)。

過去の文献では、ヒトの喘息や花粉症に対する特定抗原免疫療法では、リンパ節内へ注射する接種方法のほうが、他の投与経路に比較して、少量のアレルゲンを注射するだけで治療効果が得られるという利点が挙げられています。今回の研究では、皮下注射とリンパ節内注射とのあいだで、IgG抗体価の濃度上昇に有意差は認められなかったことから、馬に対する実際の免疫療法の臨床応用では、疼痛や侵襲性の少ない皮下注射が望ましいと考察されています。

20230907_Blog_Topic267_EstablshmPrtclPrvtVaccntnEqIBH_Pict3.jpg

この研究では、サシバエ抗原の免疫療法の実施後、PBMC再活性試験におけるインターロイキン10の分泌が確認されました。一般的に、免疫療法におけるアレルギー反応の制御においては、原因抗原に対するIgGとIgEの拮抗作用のほか、アレルギーの抑制的介在物質であるインターロイキン10が生成されることが挙げられており、今回の研究でも、この現象が実証されたと結論付けられています。

この論文は、アイスランドでの研究であり、吸血昆虫のいない気候であるため、IBHに完全フリーな馬を用いた実験なのが特徴です。このため、実験馬が元々持っているアレルゲン感作の影響を排除しながら、IgG抗体の濃度上昇が達成されたことから、抗原免疫療法の有用性が高いことが実証されたと言えます。ただ、将来的に、これを日本で臨床応用するためには、日本各地にいる昆虫を特定して、そのアレルゲンを用いた製剤を確立させる必要があります。日本は、南北に長く、気候が多様な国である上に、湿度の高さから多数の昆虫種が存在すると推測されるため、アレルゲン特定の作業には多くの時間と費用が掛かりそうな気がします。

Photo courtesy of Current Dermatology Reports (2019) 8:303–312.

関連記事:
・馬の滑膜侵襲における通常X線検査の有用性
・馬の昆虫刺咬性過敏症:オクラシチニブ投与
・馬の昆虫刺咬性過敏症:インターロイキン5ワクチン
・馬の昆虫刺咬性過敏症:精油スプレー療法
・馬の皮膚での新しい減張縫合法
・馬の外傷にバンテージを巻くべきか?
・陰圧療法での馬の外傷治療
・馬のフレグモーネに対する空気圧縮療法
・外傷の滑膜侵襲での造影検査
・馬の抗真菌剤の局所灌流
・馬のメラノーマは予防接種で防げるのか?
・馬の繋皹での常在菌の役割
・馬の蕁麻疹への対策は根気強く
関連記事
このエントリーのタグ: 皮膚病 治療 疾病予防

プロフィール

Rowdy Pony

Author:Rowdy Pony
名前: 石原章和
性別: 男性
年齢: アラフィフ
住所: 北関東
職業: 獣医師・獣医学博士
叩けよ、さらば開かれん!

質問、御意見、記事の要望等は下記まで
E-mail: rowdyponies@gmail.com

最新記事

ブログメニュー

馬の話題

馬の病気の話題
・蹄葉炎, 切腱術
・ナビキュラー症候群
・蹄病一般, 装蹄
・腱靭帯疾患
・背部/腰部/仙腸部疾患
・プアパフォーマンス
・消化器疾患一般
・胃潰瘍
・虚血再灌流障害
・呼吸器の医療
・神経疾患, 神経学検査
・クッシング病
・繁殖疾患と繁殖学
・皮膚病の医療
・眼科疾患, 眼科治療
・歯科疾患, 歯科治療
・寄生虫病
・高齢馬の医療
・子馬の病気や管理法
・子馬/若齢馬の長期的影響
・突然死
・症例シリーズ

馬の医療の話題
・疝痛の検査
・経鼻チューブ
・腹水検査
・疝痛の予防
・疝痛の手術判断と予後予測
・開腹術の手技や合併症
・疝痛の外科的処置
・疝痛の獣医療での地域差
・跛行検査, 画像診断
・関節鏡
・去勢, 泌尿生殖器
・抗生物質
・COX-2限定阻害薬
・破骨細胞抑制剤
・ショックウェーブ
・パーグ治療
・馬のハンドリング, 投薬
・バイオマーカー
・麻酔
・整形外科
・キャスト, ピンキャスト
・再生医療
・先端医療
・良い死(Euthanasia)
・馬の獣医療一般

馬の一般的話題
・馬の飼養管理一般
・飼養管理での病気/怪我の予防
・馬学一般
・ウマ社会の話題
・獣医学一般, 日常
・馬の飼料
・跛行と運動
・調馬索
・サク癖
・馬の行動学や悪癖
・ハミや馬具
・輸送
・怪我や事故の予防,対処法
・ホースマンの怪我と事故
・競馬での事故死や骨折
・馬とヒト, 伝染病, 馬動物学

馬の診療シリーズ

サイト内タグ一覧

FC2カウンター

リンク

カレンダー

01 | 2024/02 | 03
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 - -

推薦図書

月別アーカイブ

お断わり

20130414_Blog_Message_Pict1.jpg
このサイトに掲載されているイラスト、画像、文章は、すべて管理主自身が作成したもの、もしくは、著作権フリーの素材リンクから転載したものです。

カテゴリ

全記事表示リンク

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
22位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
自然科学
2位
アクセスランキングを見る>>

FC2ブログランキング

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

検索フォーム

QRコード

QR