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競走馬の心房細動とプアパフォーマンスの関連性

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一般的に、馬のプアパフォーマンスでは、運動器系および呼吸器系に次いで、心脈管系の疾患が、三番目に多い原因であることが知られていますが、その発生による影響や、他病態との相互作用については不明な点が多いと言えます。

ここでは、競走馬のプアパフォーマンスと心房細動(Atrial fibrillation)の関連性を調査した知見を紹介します。この研究では、香港と豪州での2009〜2021年の平地レースにおいて、プアパフォーマンスと競走後の心房細動を呈した164頭、プアパフォーマンスだが競走後の心房細動は無かった321頭、および、プアパフォーマンスの無かった対照馬314頭における、馬やレースに関わる諸因子と、競走後の内視鏡検査での運動誘発性肺出血(EIPH)の有無/グレードとの関連性が、オッズ比(OR)の算出によって解析されました。

参考文献:
Nath LC, Elliott A, La Gerche A, Weir J, Forbes G, Thomas G, Franklin S. Associations between postrace atrial fibrillation and measures of performance, racing history and airway disease in horses. J Vet Intern Med. 2023 Sep 23. doi: 10.1111/jvim.16878. Online ahead of print.

結果としては、対照馬と比較した多因子解析では、心房細動によるプアパフォーマンスを起こす割合は、一着との距離が一馬身差だけ増すごとに四割以上も高い(OR=1.41)ことが分かりました。一方で、同割合は、当該競走までの一レース当たりの賞金が1,000ドル多いごとに、むしろ2%も高い(OR=1.02)ことも示されています。なお、一着との距離は(中央値)、対照馬では約4馬身であったのに対して、心房細動の発症馬では約21馬身となっていました。

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このため、競走馬の心房細動においては、それを発症したレースでは、当然ながら、明瞭なプアパフォーマンスに繋がることを再確認させるデータが示されました。過去にも、複数の文献において、心房細動が競走パフォーマンスを低下させることが示されています[1-3]。また、実験データでは、心房細動による襲歩速度の低下は、約12%の減少に留まることが報告されていますが[4]、今回の研究では、心房細動の発症馬では、一着から20馬身以上も離されたことが分かり、多くの馬が惨敗していたことが示されました。

一方で、長期的な影響を見てみると、心房細動によるプアパフォーマンスを起こした馬では、逆に、競走能力がやや高い(一出走当たりの賞金が多い)というデータが示されました。この理由としては、病因論的に言って、心臓サイズが大きい馬ほど心房細動を発症しやすいため、そのような馬は、心拍出量や酸素運搬能も高くなり、レース中に心房細動に至らなければ、競走能力そのものは優れている個体が多かったことが挙げられています。また、今回の研究での心房細動は、競走後の聴診や心電図で発見されたものであるため、実際のレース中には心房細動は起こっておらず(レース終了から心電図を取るまでのあいだに細動を発現した)、競走能力に悪影響を与える要因ではなかった可能性もあると考察されています。

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この研究では、心房細動によるプアパフォーマンスを起こした馬では、EIPH(Grade-3以上)を併発していたのは21.1%に及んだのに対して、心房細動無しでプアパフォーマンスを呈した馬では、EIPH (Grade-3以上)を発症していたのは3.3%に留まっていました。その結果、心房細動によるプアパフォーマンスになる割合は、EIPH (Grade-3以上)が起こっていた場合には、八倍近くも高い(OR=7.9)ことが分かりました。この要因としては、心房細動による酸素運搬能の低下から脾臓収縮が起こると(脾臓の貯蔵赤血球を動員させるため)、左心房圧が上昇するため、これが肺高血圧に繋がって、肺出血の発生率を上げたことが考えられました。ただ、心房細動と鼻出血とのあいだには、有意な相関は無かったという報告もあるため[2]、見た目上の鼻出血は無くても、内視鏡で検知されるレベルの軽度な肺出血も、内視鏡で早期診断して予防措置を講じることで、競走中のプアパフォーマンスを未然に防げることもあり得ると考えられました。

この研究では、心房細動によるプアパフォーマンスを起こす割合は、罹患馬の年齢が一歳増すごとに、約三割も低い(OR=0.72)ことが分かりました。一般的に、高齢な競走馬ほど、キャリアを通しての強運動の総量、出走回数、競走総距離などは多いと推測されます。このため、競走馬としての運動負荷の蓄積は、必ずしも心房細動の主因ではなかったと考察されています。ヒト医療では、スポーツ選手のトレーニングによる心肥大が、心房細動の発生率を上げることが、知られていますが、馬は、もともと心臓の物理的サイズが大きいため、同様な発症機構は当てはまらないと推測されています。

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参考文献:
[1] Slack J, Boston RC, Soma LR, et al. Occurrence of cardiac arrhythmias in Standardbred racehorses. Equine Vet J. 2015 Jul;47(4):398-404.
[2] Ohmura H, Hiraga A, Takahashi T, et al. Risk factors for atrial fibrillation during racing in slow-finishing horses. J Am Vet Med Assoc. 2003 Jul 1;223(1):84-8.
[3] Nath LC, Elliott AD, Weir J, et al. Incidence, recurrence, and outcome of postrace atrial fibrillation in Thoroughbred horses. J Vet Intern Med. 2021 Mar;35(2):1111-1120.
[4] Buhl R, Carstensen H, Hesselkilde EZ, et al. Effect of induced chronic atrial fibrillation on exercise performance in Standardbred trotters. J Vet Intern Med. 2018 Jul;32(4):1410-1419.

関連記事:
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