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馬の昆虫刺咬性過敏症:インターロイキン5ワクチン

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馬の病気のなかでも、皮膚病は、目に付きやすい事もあり、ホースマンからの相談が多いものの一つです。このうち、馬のアレルギー性皮膚炎は、体躯や四肢に発疹や脱毛、掻痒感による自傷を起こして、ホースマンを悩ませる病気ですが、その原因として多いのが、吸血昆虫などの唾液成分がアレルゲンとなって発症する、昆虫刺咬性過敏症(IBH: Insect bite hypersensitivity)であると言われています。

ここでは、インターロイキン5活性ワクチン(Active vaccination against IL-5)にて、IBHにおける好酸球浸潤の抑制を試みた知見を紹介します。この研究では、34頭のIBH罹患馬を用いて、ウイルス様粒子を介した遺伝子ワクチンを三回接種して(3月に二回、6月に一回)、馬インターロイキン5の自己免疫抗体を生成させて、19頭の治療群(IL-5ワクチンの接種馬)と15頭の対照群における、IBHの臨床症状スコアの経時的評価と、血中抗体価の測定が行なわれました。

参考文献:
Fettelschoss-Gabriel A, Fettelschoss V, Thoms F, et al. Treating insect-bite hypersensitivity in horses with active vaccination against IL-5. J Allergy Clin Immunol. 2018 Oct;142(4):1194-1205.e3.

結果としては、IL-5ワクチンの接種により、IL-5への自己免疫抗体が誘導されたのは89%(17/19頭)に達しており、それに伴い、血中の好酸球数が減少していた一方で、ワクチン接種による副作用は認められませんでした。また、対照馬と比較した場合、および、治療の前年と比較した場合に、IL-5ワクチンを接種された馬では、IBHの臨床症状スコアが有意に減少したことが分かりました。具体的には、治療群の馬での、前年と比較した臨床症状スコアの減少度合いを見ると、スコアが1/2以下になった馬は47%で、スコアが1/4以下になった馬は21%に上っていました。一方、対照群の馬では、スコアが1/2以下になった馬は13%に過ぎず、スコアが1/4以下になった馬はいませんでした。(下記は参考写真で、IL31ワクチンの接種前[a]と接種後[c])

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このため、IBHの罹患馬に対しては、IL-5ワクチンの接種により、皮膚炎の症状を抑える効能が期待される、という考察が成されています。一般的に、IL-5は、好酸球の浸潤を増加させるサイトカインであり、ワクチン接種で生じる自己免疫抗体によって、過剰なIL-5生成を抑制することで、アレルギー性皮膚炎の症状発現を減退できると考えられています。ヒトやマウスの研究では、遺伝子ワクチンによるIL-5自己免疫抗体の誘導では(ヒトでは喘息での好酸球浸潤を抑える目的で検証されている)、好酸球数の減少や活性低下による生体防御への悪影響は少なく、サイトカインとしてのIL-5には、好酸球の浸潤以外の重要な生理学的機能は少ないことから、IL-5ワクチンの接種による明瞭な副作用は認められず、安全性の高い治療方針であることが報告されています。

この研究でIL-5ワクチンを接種されたIBH罹患馬たちは、翌年に補強のワクチン接種を受けて(3月に一回のみ)、その後の経過追跡が行なわれています(下記の論文)。その結果、初年度の基礎ワクチンに比べて、翌年の補強ワクチンのほうが、IBHの臨床症状スコアの減少度合いは優れていたことが報告されており、その理由としては、補強ワクチンの接種のほうが、より安定した自己免疫抗体の誘導に繋がったことが挙げられています。また、当然ながら、補強ワクチンによる抗体価の増加は、可逆的な反応であるため、もし、好酸球の抑制作用が好ましくないと考えられる症例においては、毎年の補強接種を止めれば、元通りの好酸球数を回復できることも示されています。

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今回の二つの研究では、IL-5ワクチンによる自己免疫抗体によって、好酸球数が減少していた期間においても、蟯虫症の発現は認められなかったことが報告されており、好酸球の浸潤や活性化を抑制しても、寄生虫に対する防御能低下は起きていなかった、という考察が成されています。しかし、他の寄生虫感染の動向は評価されておらず、また、より長期間にわたって接種された場合の、呼吸器系の感染防御能に関する影響についても、今後の精査を要すると考えられます。

この研究で評価されたIL-5ワクチンは、IBHに対する減感作療法や抗原免疫療法と異なり、IBHを起こしうる日本特有の昆虫を特定する必要がなく、海外で検証されて市販された製剤を、そのまま日本国内でも臨床応用できるという利点があります。一方で、日本は湿度が高く、馬の飼養環境中の真菌/ダニ/厩舎ダスト等の濃度も、欧州や北米とは異なると考えられるため、インターロイキンという馬体の防御機構の一つを人為的に操作した場合における安全性については、日本国内で独自に検証する必要があると推測されます。

参考文献:
Fettelschoss-Gabriel A, Fettelschoss V, Olomski F, et al. Active vaccination against interleukin-5 as long-term treatment for insect-bite hypersensitivity in horses. Allergy. 2019 Mar;74(3):572-582.

Photo courtesy of Current Dermatology Reports (2019) 8:303–312.
Photo courtesy of Allergy. 2019 Mar;74(3):572-582.

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