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馬の昆虫刺咬性過敏症:オクラシチニブ投与

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馬の病気のなかでも、皮膚病は、目に付きやすい事もあり、ホースマンからの相談が多いものの一つです。このうち、馬のアレルギー性皮膚炎は、体躯や四肢に発疹や脱毛、掻痒感による自傷を起こして、ホースマンを悩ませる病気ですが、その原因として多いのが、吸血昆虫などの唾液成分がアレルゲンとなって発症する、昆虫刺咬性過敏症(IBH: Insect bite hypersensitivity)であると言われています。

近年では、犬のアレルギー性皮膚炎に対して、鎮痒剤のオクラシチニブ(アポキル錠®)の投与が行なわれており、馬のIBHに対する同薬の臨床応用も試みられています[1,2]。オクラシチニブは、ヤヌスキナーゼ阻害薬という分子標的薬で、痒みを起こす物質の一つであるインターロイキン31の作用を抑制する薬剤です。現時点では、ステロイドよりも副作用が少ないと考えられていますが、ヒト医療よりも獣医療で先に認可されたという、比較的に珍しい薬剤であるため、長期的な副作用に関する知見は十分では無いと言えます。

参考文献:
Marsella R, Doerr K, Gonzales A, Rosenkrantz W, Schissler J, White A. Oclacitinib 10 years later: lessons learned and directions for the future. J Am Vet Med Assoc. 2023 Mar 25;261(S1):S36-S47.

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近年の研究では、健常な実験馬を用いて、オクラシチニブの静脈内投与および経口投与と、その後の血液検査を行ない、その結果、血中濃度は治療レベルに達することと、犬よりも馬のほうが高い血中濃度が維持されるため、一日1回の経口投与で治療が実施可能であることが示されました[3,4]。これらの研究では、投与後の評価は三日目までであり、長期的な副作用は精査されていませんでした。

そして、その後の研究では、アレルギー性皮膚炎を発症した58頭の症例馬に対して、偽薬(プラセボ)とオクラシチニブ(低濃度と高濃度)の経口投与が実施されました(無作為割り当て、一日1回投与、四週間の投与)。結果としては、偽薬投与された対照馬群に比較して、オクラシチニブ投与された治療馬群では、掻痒感の臨床スコアが有意に減少することが示されました。また、そのような痒みの減退効果は、投与の五日目から視認され、四週間目の投与終了まで継続していました[5]。

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このため、IBH等の馬のアレルギー性皮膚炎に対しては、ヤヌスキナーゼ阻害薬であるオクラシチニブの投与によって、掻痒感の臨床症状を制御できることが示唆されました。しかし、治療馬においても、皮膚病変のスコアは有意には変化しておらず、オクラシチニブ投与によっても、皮膚炎の病態が治癒する訳ではないことが分かりました。このため、クスリの価格や、長期的な副作用が未解明であることを考えると、馬のIBHに対する臨床応用は、費用対効果がまだ不明瞭であると言わざるを得ません。なお、犬へのオクラシチニブ投与では、免疫抑制に起因して、毛包虫症、膿皮症、外耳炎を起こす可能性があると言われています[6]。

この研究[5]では、馬のアレルギー性皮膚炎に対するオクラシチニブの効能は、偽薬と比較されたのみで、ステロイドや抗ヒスタミン剤など、従来の治療薬との相対的な効能が検証されていないという限界点があります。また、このデータは学会発表のみで、査読を受けた論文にはなっていないのも懸念点だと言えます。更に、現時点では、馬に対するオクラシチニブの投与は認可されていません(犬のアレルギー性皮膚炎に対して認可済)。なお、馬に対するオクラシチニブ投与の費用は、二週間分で5~8万円になると予測されます(日本国内で販売されている犬用薬をそのまま用いた場合の価格)。

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Photo courtesy of Zoetis Japan; Vet Sci. 2021 Jul 2;8(7):124; JAVMA,2012,241(2),194-207.

参考文献:
[1] Marsella R. Atopic Dermatitis in Domestic Animals: What Our Current Understanding Is and How This Applies to Clinical Practice. Vet Sci. 2021 Jul 2;8(7):124.
[2] Marsella R, White S, Fadok VA, et al. Equine allergic skin diseases: Clinical consensus guidelines of the World Association for Veterinary Dermatology. Veterinary Dermatology. 2023;34(3):175-208.
[3] Collard W, Thorn J, Smith S, et al. Pharmacokinetics of oclacitinib following oral and intravenous administration to horses. 2020 ACVIM forum on demand research abstract program. J Vet Int Med. 2020;34: 2979.
[4] Hunyadi L, Datta P, Rewers-Felkins K, et al. Pharmacokinetics of a single dose of oclacitinib maleate as a top dress in adult horses. J Vet Pharmacol Ther. 2022; 45: 320–4.
[5] Visser M, Cleaver D, Cundiff B, et al. Oclacitinib maleate (Apoquel) dose determination in horses with naturally occurring allergic dermatitis. 2020 ACVIM forum on demand research abstract program. J Vet Int Med. 2020;34: 2977–8.
[6] Gotthelf LN. Efficacy of Apoquel for the control of otitis externa secondary to allergic skin disease in client-owner dogs. Int J Vet Health Sci Res. 2017;5(7):208–212.

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