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馬の球節固定術ではテンションバンドは不要?

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馬に対する球節固定術は、懸垂装置の破損によって球節の掌側支持機能が失われた場合や(繋靭帯や種子骨靭帯の断裂)、球節の重篤な関節疾患などによって疼痛管理が困難な場合(球節の変性関節疾患)に適応されます。このうち、前者では、球節の懸垂装置の機能を回復させる外科的措置(テンションバンドワイヤーの設置)が必要になるのに対して、後者では、その必要性が低いというのが、これまでの術式選択の指針とされてきました。

しかし、近年では、ロッキング・コンプレッション・プレート(LCP: Locking compression plate)という強度に優れたインプラントが使われるようになったため、LCPがバットレスプレートとして作用して、屈曲負荷への耐久性を高めることから、テンションバンドを併用せずとも、十分に堅固な球節固定術を実施できるのではないか、という論議もあります。そこで、下記の研究では、屠体肢を用いた物理的強度試験によって、LCP単独、または、LCPとテンションバンドの併用による球節固定術の強度比較が行なわれました。

参考文献:
Kadic LIM, Rademacher N, Liu CC, Leise BS, McCauley CT, Riggs LM. The influence of a tension band fixation as an adjunct for arthrodesis of the metacarpophalangeal joint in the horse. Vet Surg. 2023 Sep 26. doi: 10.1111/vsu.14036. Online ahead of print.

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結果としては、反復負荷試験では(1キロニュートンの負荷を繰り返す)、球節固定術の部位の変位は1.1mm以下に留まり、二種類の術式のあいだで有意差は無いことが分かりました(サイクルの最初と最後の5%で比較)。また、単回負荷試験では(検体が壊れるまで負荷を掛ける)、球節固定術の部位における降伏点(非可逆的な損傷が発生する負荷)を見ても、二種類の術式のあいだで有意差は無いことが報告されています。なお、上写真では、左側がLCP単独、右側がLCPとテンションバンドを併用した球節固定術を示しています。

また、この研究では、単回負荷試験における破壊負荷を見ると、LCP単独よりも、LCPとテンションバンドの併用のほうが、有意に高値を示していました。しかし、いずれの術式でも、球節固定術の破壊負荷(中央値)は15キロニュートン以上であり、これは、馬の体重の約三倍に相当することから(約1,530kg)、実際の症例馬の肢に生じる負荷がこれを越えることは無いと推測されています。

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このため、馬の球節固定術では、テンションバンドを併用せず、LCP単独の術式によって、十分に堅固な関節固定が達成できることが示唆されました。通常、テンションバンドのためのワイヤー設置に際しては、管骨外顆を骨切術した後、管骨と種子骨の隙間にパッサー器具を用いながらワイヤーを挿入し、外顆を戻して螺子固定するなど、外科的侵襲性が高い手技が必要となり、手間と時間も掛かります。ですので、テンションバンドを併用しなくても、LCP固定のみで十分な強度が得られれば、より低侵襲かつ短時間で球節固定術が実施できるため有用だと言えます。

この研究の物理的強度試験では、垂直方向への圧迫負荷のみが掛けられており、捻転負荷に対する強度は評価されていませんでした。通常、馬の球節固定術におけるテンションバンドは、大きな8の字の形状であるため、球節を捻じる力にもある程度は抵抗できるという特徴があります。特に、骨片整復のために側副靭帯を切断する場合には、捻じる方向への球節の支持機能が損失するため、このテンションバンドの作用は重要になってきます。このため、テンションバンドを用いない球節固定術では、副木やキャストでの外固定を併用するなどして、捻転負荷への安定性を補強したほうが良いのかもしれません。

Photo courtesy of Vet Surg. 2023 Sep 26. doi: 10.1111/vsu.14036; AO Surgery Reference.


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