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立位で整復された骨折馬の競走成績

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一般的に、競走馬に起こる骨折の中でも、基節骨の矢状骨折や、管骨の内顆/外顆の縦骨折では、不完全骨折(亀裂骨折)で骨片変位が無ければ、立位での骨折整復(螺子固定術)が可能であることが知られています。この場合、鎮静と局所麻酔での内固定と、キャスト装着による外固定が併用され、麻酔覚醒時の事故リスクが無いという利点があります。

そこで、下記の研究では、骨折馬の立位手術での治療効果を検証するため、英国の馬病院において、2007〜2021年にかけて、基節骨や管骨の亀裂骨折を呈して、立位での螺子固定術が実施された245頭の症例馬における、医療記録の回顧的解析および術後の競走成績の調査が実施されました。

参考文献:
Colgate VA, Robinson N, Barnett TP, Bathe AP, Coleridge MOD, Smith LCR, Payne RJ. Outcome and racing performance following standing fracture repair in 245 horses. Equine Vet J. 2023 Oct 6. doi: 10.1111/evj.14016. Online ahead of print.

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結果としては、立位手術で螺子固定された骨折馬のうち、術後にレース復帰を果たしたのは75%に及んでおり、レース復帰までの休養期間(中央値)は、約八ヶ月(241日)であったことが報告されています(術後の退院率は98%)。このため、立位での骨折整復では、比較的に良好な予後が期待され、レース復帰できる馬の割合も高いことが示唆されました。なお、今回の研究と同じ病院における2012年の報告(34症例)では、立位で整復された骨折馬のレース復帰率は67%で、休養期間は226日(中央値)となっていました(Payne et al. EVJ. 2012;44:721)。

この研究では、立位手術で骨折整復された症例馬のうち、レース復帰を果たした馬においては、骨折前と手術後で、同程度の競走成績をおさめたことが分かりました。具体的には、一レースごとの獲得賞金(骨折前628ポンド、手術後653ポンド)、勝利した馬の割合(骨折前51%、手術後54%)、および、着順の上位1/3に入る割合(骨折前77%、手術後71%)において、いずれも、骨折前と手術後で有意差が無かったことが報告されています。

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この研究では、立位で骨折整復された後、退院までに合併症を起こした馬の割合は、レース復帰できなかった馬では37%に達したのに比較して、レース復帰を果たした馬では17%に留まっていました。この要因としては、術創感染やキャスト褥瘡など、合併症そのものが難治性の経過を取って、予後を悪化させたケースが考えられます。その一方で、内固定した部位の不安定性や軟部組織損傷の併発など、予後を悪化させる因子を持った症例では、術後に罹患肢への疼痛が長く残って、対側肢への過剰負荷や、休養の長期化による後躯筋力低下を続発して、間接的にレース復帰を妨げる結果になったケースもあった、と推測されています。

この研究で、最も興味深いデータは、14年間で245頭という症例件数の多さであり、平均して年間18頭の症例馬が、立位手術にて骨折整復されていたことになります。このような多頭数への臨床応用を積み重ねたことで、術者の外科的技術や鎮静/局所麻酔の手法が熟練されたことに加えて、立位手術を適応すべき症例の選別基準も最適化された結果、十年前よりも治療成績が向上した(レース復帰率67%→75%)と考えられました。

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Photo courtesy of Equine Vet J. 2023 Oct 6. doi: 10.1111/evj.14016; Equine Vet J. 2012 Nov;44(6):721-5; Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.


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