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乗用馬の球節炎におけるPET検査

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近年、ヒトや小動物の医療では、PET検査(陽電子放射断層撮影)による諸疾患の早期診断が行なわれています。PET検査は、放射能を含む薬剤を投与して、その薬剤が取り込まれた箇所を、CTやMRIなどで描出する検査手法です。当初は、癌細胞がブドウ糖を多く取り込む性質を利用して、18F-フルオロデオキシグルコース(放射能を出すブドウ糖)を投与することで、悪性腫瘍を早期診断するのに用いられてきました。一方で、運動器のPET検査においては、損傷により骨組織が露出した箇所(ヒドロキシアパタイト結晶)にフッ素が吸収される特性を利用して、18F-フッ化ナトリウム(18F-NaF:放射能を出すフッ素)を投与することで、骨芽細胞と破骨細胞が活性化されている骨再構築箇所(骨が微細損傷した部位など)を早期診断できることが示されています[1,2]。

過去の研究では、18F-NaF投与でのPET検査によって、サラブレッド競走馬の骨におけるストレス再構築病変(他の画像診断法では発見できない初期の病変)を検知できることが報告されています[3,4]。そこで、この診断法を他の用途の馬にも応用するため、下記の研究では、米国のカリフォルニア大学デービス校の獣医病院において、2016〜2021年にかけて、球節炎を発症して(関節の診断麻酔で疼痛限局化された症例)、18F-NaF投与でのPET検査が実施された25頭の乗用馬(36箇所の球節)における、医療記録の回顧的解析が行なわれました。

参考文献:
Pige C, Spriet M, Perez-Nogues M, Katzman S, Le Jeune S, Galuppo L. Comparison of 18 F-sodium fluoride positron emission tomography and computed tomography for imaging of the fetlock in 25 nonracehorses. Equine Vet J. 2023 Oct 23. doi: 10.1111/evj.14015. Online ahead of print.

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結果としては、PET検査された球節のうち、18F-NaF取込増加が認められた部位としては、基節骨の内側軟骨下骨(23/36球節)が最も多く、次いで、管骨の背内側軟骨下骨(20/36球節)、管骨の背外側軟骨下骨(16/36球節)となっていました。これらの箇所では、18F-NaF取込増加のグレードと、CT検査での骨硬化グレードとのあいだに有意な相関が認められたものの、相関の度合いは比較的に弱いものでした(相関係数は0.2程度)。つまり、PET検査によって、18F-NaF取込増加の度合いを評価することで、骨硬化領域の中でも、瘢痕化して無疼痛な慢性期の骨硬化と、疼痛や炎症を起こしている急性期の骨硬化を鑑別診断できると考えられました。

この研究では、PET検査された球節の中で、近位種子骨に18F-NaF取込増加の異常を認めたのは1/3に及んでおり(12/36球節)、CT検査で同部位の異常が検知されたのは一割以下(3/36球節)となっていました。このため、馬の球節のPET検査では、特に、種子骨の領域において、他の画像診断では検知できない病変を早期発見できる可能性があると考察されています。なお、過去の文献を見ると、競走馬のPET検査でも、CT検査では視認できない種子骨の損傷を発見できることが報告されています。

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過去の研究では、競走馬の球節におけるPET検査では、18F-NaF取込増加の好発部位は、管骨の掌側/底側の顆状突起であることが報告されています(外顆が57%で、内顆が58%の症例)。これを、今回のデータと比較すると、乗用馬は管骨の前面を損傷し、競走馬は管骨の後面を損傷するという違いがあることが分かりました。この要因としては、乗用馬の管骨は、収縮運動での蹄離地の直前のタイミングで負荷が最大になるのに対して、競走馬の管骨は、襲歩で踏着する瞬間の衝撃で損傷することに起因すると推測されます。

この研究では、球節に生じた骨棘形成のうち、PET検査にて18F-NaF取込増加を伴っていたのは約四割に過ぎませんでした。この要因としては、上記の骨硬化と同じく、18F-NaF取込増加は急性の骨棘にのみ認められるためであり、このため、慢性化している骨棘との鑑別に役立つと考察されています。同様な知見は、犬の肘関節のPET検査においても示されています[5]。

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この研究で検証されたようなPET検査を、日本の馬医療に広く応用するには高いハードルがあります。その理由としては、乗用馬を検査できるCTやMRIの施設が未整備であることに加えて、放射性物質を用いた医療行為に関する法規制が厳しいことが挙げられます(被爆国として放射線を許容しにくい国民感情があるため)。しかし、PET検査に加えて、海外では一般的な検査であるシンチグラフィーも含めて、馬の福祉向上に寄与できる診断手法については、行政(または大規模組織)が動きを起こして、徐々に整備を進めていく必要があるのかもしれません。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2023 Oct 23. doi: 10.1111/evj.14015.

参考文献:
[1] Spriet M, Espinosa P, Kyme AZ, et al. 18 F-sodium fluoride positron emission tomography of the equine distal limb: Exploratory study in three horses. Equine Vet J. 2018 Jan;50(1):125-132.
[2] Spriet M, Espinosa P, Kyme AZ, et al. Positron emission tomography of the equine distal limb: exploratory study. Vet Radiol Ultrasound. 2016 Nov;57(6):630-638.
[3] Spriet M, Espinosa-Mur P, Cissell DD, et al. 18 F-sodium fluoride positron emission tomography of the racing Thoroughbred fetlock: Validation and comparison with other imaging modalities in nine horses. Equine Vet J. 2019 May;51(3):375-383.
[4] Spriet M, Arndt S, Pige C, et al. Comparison of skeletal scintigraphy and standing 18 F-NaF positron emission tomography for imaging of the fetlock in 33 Thoroughbred racehorses. Vet Radiol Ultrasound. 2023 Jan;64(1):123-130.
[5] McLarty E, Spriet M, Beylin D, et al. Comparison of 18F-sodium fluoride positron emission tomography and CT: An exploratory study in 12 dogs with elbow pain. Vet Radiol Ultrasound. 2021 Jul;62(4):498-506.


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