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腸間膜憩室ヒモによる馬の疝痛

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一般的に、腸間膜憩室ヒモ(Mesodiverticular band)は卵黄奇形に分類され、胎生期に腸管と卵黄包を繋いでいる組織が遺残することで発生します。卵黄奇形を分類すると、胎生期腸管の一部が袋状に残ったものをメッケル憩室と呼び、胎生期腸管膜のみが残ってしまうと腸間膜憩室ヒモになります。馬では、このヒモが腸管と干渉して、小腸の捻転・絞扼・捕捉・圧迫などを生じて、疝痛の原因になることが知られています。

馬における腸間膜憩室ヒモによる疝痛は、比較的に稀な疾患であるため、発症率や病態組織学、外科的療法での治療成績などに関する知見は限定的です。そこで、下記の研究では、英国のリバプール大学の獣医病院にて、2009〜2022年にかけて、開腹術となった計1,943頭の疝痛馬の医療記録の回顧的解析が行なわれました(上のイラストはメッケル憩室)。

参考文献:
Shanklin AJ, Archer DC, Baldwin CM. Clinical features and outcome of 40 horses with mesodiverticular bands identified during exploratory laparotomy for management of acute colic. Equine Vet J. 2023 Oct 3. doi: 10.1111/evj.14014. Online ahead of print.



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腸間膜憩室ヒモの病態

この研究では、開腹術となった1,943頭のうち、腸間膜憩室ヒモが認められたのは40頭(2.1%)でしたが、そのうち、15頭は偶発的な病態で、直接的/間接的に小腸閉塞に関与していたのは25頭でした。このため、腸間膜憩室ヒモによる小腸閉塞は、外科的疝痛の1.3%を占める(25/1,943頭)ということが分かりました。なお、直接的/間接的に小腸閉塞を起こした腸間膜憩室ヒモでは、発症年齢(中央値)は二歳となっており、偶発的なものでの発症年齢(八歳)よりも明瞭に若齢となっていました(腸間膜憩室ヒモは先天的な病変であるため、疝痛を起こす場合には、若い年齢において起こり易いため)。

この研究では、腸間膜憩室ヒモが、直接的に小腸閉塞を起こしていた15頭では、その病態として、腸間膜短縮による壁外圧迫(4頭:上図のA)、ヒモの周りに腸管が巻き付いたことによる小腸捻転(2頭:上図のB)、腸間膜憩室ヒモで形成されたポケット内腔への捕捉(5頭:上図のC)、腸間膜憩室ヒモで形成されたスリット間隙による絞扼(4頭:上図のD)、などが見られました。なお、腸間膜憩室ヒモが小腸閉塞を起こさない割合は(=偶発的な病態になっている割合)、空腸の中央に位置している場合が100%(5/5頭)で、ポケットが無い場合も73%(11/15頭)となっていました。



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腸間膜憩室ヒモの術中所見

この研究では、馬の腸間膜憩室ヒモの形状やサイズには、かなりの多様性があると述べられており、これには、細い索状の構造物だったり(下写真のA)、より幅の広い帯状をしていたり(上写真の白矢頭)、袋状のポケットになっている場合(下写真のB)などが含まれました。また、腸間膜憩室ヒモによって引き起こされる小腸の病態も、絞扼性の小腸虚血性壊死から(下写真のC)、非絞扼性の壁外圧迫だけのケースまで(下写真のD)、多様なものが認められたことが報告されています。

この研究では、腸間膜憩室ヒモがあった部位としては、遠位空腸が73%(29/40頭)と最も多いことが分かり、次いで、空腸回腸移行部が15%(6/40頭)、空腸中央部が13%(5/40頭)となっていました。また、腸間膜憩室ヒモの形状は、袋状のポケットが48%(19/40頭)と最多で、次いで、索状が38%(15/40頭)、腸間膜スリットと腸間膜短縮がそれぞれ18%(7/40頭)を占めていました。更に、併発病変としては、過長な回盲ヒダ(4頭)、メッケル憩室(3頭)、腸ヒモ奇形(3頭)、腸間膜憩室(2頭)、結腸との異常固着(1頭)などが認められました。

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腸間膜憩室ヒモの治療成績

この研究では、腸間膜憩室ヒモが、直接的に小腸閉塞を起こしていた15頭のうち、小腸の切除・吻合術を要したのは53%(8/15頭)に及んでいました。また、これらの症例では、3頭が術中に安楽殺になり、他の3頭が入院中に安楽殺されたため(持続的な胃逆流、血腹症、癒着がそれぞれ一頭ずつ)、腸間膜憩室ヒモによる小腸閉塞での短期生存率は60%(9/15頭)に留まっており(短期生存=退院を果たした馬の割合)、更に、長期生存率は53%(8/15頭)になっていました(長期生存=一年間以上生存した馬の割合)。

この研究では、腸間膜憩室ヒモそのものの切除では、合併症を起こした馬はいませんでした。逆に、偶発的ではない腸間膜憩室ヒモを、切除せずに温存した4頭では、その紐が原因となって再発した疝痛によって、再度の開腹術を要した馬が75%(3/4頭)に達していました。この三頭では、小腸膨満の再発(術後12時間)、小腸閉塞の再発(術後四日目)、腸間膜憩室ヒモの部位での癒着(術後11ヶ月目)が、それぞれ一頭ずつ認められました。このため、馬の開腹術の際に発見された腸間膜憩室ヒモは、可能な限り切除しておくことが推奨されています。

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Photo courtesy of Equine Vet J. 2023 Oct 3. doi: 10.1111/evj.14014; Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.

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